五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」30

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五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」30

 神崎さんも姿勢を正した。  事態は最悪の状態になっているとのこと。昨日の出来事に加え、噂が噂を呼んであらぬ尾ひれまでついて、社内は彼女の噂で持ちきり、中傷と非難が飛び交っている。というのだ。  噂とメールは彼女だけに止まらず、神崎さんも男性を斡旋(あっせん)などなんらかの関与をしている。との怪情報が流れているらしい。  神崎さんは上司に呼び出され、事情を確認されたという。当然、全面的に否定した。ひとつ、気がかりになる話を聞いたらしい。  今回の件で、彼女と神崎さんだけならまだしも、またしても杉田さんの名前もあがっているというのだ。杉田さんが彼女に男を紹介している胴元(どうもと)的な噂も流れているとうのだ。  杉田さんはもう異動して他県にいる。本社に勤務しているわけではない。なのにどうして杉田さんまで巻き込まれなければならないのか。合点がいかない。と神崎さんが言った。  しかし、これで一つ見えてきたことがあると付け足した。  彼女、僕、杉田さん、この三人に関わる誰かの仕業だと的が絞れるということだ。  誰かのではなく、三人を知っている共通の誰かが関わっていることが見えてくる。  案外、身近で、最近の出来事ではなく、以前からそこの根深い恨みを抱いてる人物の仕業だと限定した。  次に、すぐに犯人はぼろをだす。犯人は噂の流れ具合で愉悦(ゆえつ)しているのように、怪情報がエスカレートしている。職場の関係者とポイントが絞れる。解決は時間の問題だ。もう少しの辛抱だから。と神崎さんは彼女に伝えた。  彼女がこくりとうなずいた。黒い霧の中で、光が見えたのか、彼女は私に明日から会社の出勤してほしいと言った。大丈夫と訊けば、もう大丈夫です。それにこれ以上迷惑はかけられない。とも言った。迷惑だなんて思ってないよ。と伝えたが、彼女は作り笑いを浮かべて、うん、と返事をしたようにうなずいた。私の気持ちは伝わっているということだ。  それで、彼女はどうするのかと訊ねた。 「しばらく休ませていただくことにする。できれば美智子さんのところへ会いに行きたい」と彼女が言った。それはいいことかもしれない。と私と神崎さんは安心した。  彼女は二人がいる間にお風呂に入ってくると言って立ち上がった。  彼女がお風呂に入っている間に、私は神崎さんとこそこそ話を始めた。 「実は頭の隅に引っかかっている人物がいる」 「私も」と思い浮かべる人物像が一致する。 「じゃあ、相手には悟られないように探りを入れてみるよ」  神崎さんの言葉に私がうなずいて話を終えた。
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