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五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」31
翌朝、私はいったん家に帰り、着替えをしてから出勤した。
昨日のことを振り返り、彼女は強い人だとまた思えるようになった。
見知らぬ男に取り囲まれた恐怖は簡単にぬぐい去れるものではない。人によってはトラウマとなり引きこもってしまうかもしれない。彼女もその前兆になりつつあった。
でも、彼女には、神崎さんがいる。杉田さんもいる。美智子さんもいる。忘れてはいけない椎名先生もいる。そして、微力ながら私もいる。
故郷にいたときとはまるで違う。支える人、相談に乗る人、はげます人、そばにいようとする人、いつでも受け止めてくれる人、一緒に食事をしてくれる人、自分はひとりじゃないってことを、彼女はきっと自覚しているはずだ。
周りから無視され、排除され、拒絶され続けてたあの日と比べれば、彼女を取り巻く環境は良き方向へと変わった。
大丈夫。今回もきっとこの困難を乗り越えられる。私はまだ小さいかもしれないけれど、若干かもしれないけれど、安心を胸にして、神崎さんとの打ち合わせ通り、噂の収集を始めことにして、犯人につながるなにか取っ掛かりを探そうとした。
まずは情報源としては欠かせない炊事場へ顔を出した。そして井戸端会議に加わる。
昨日、変な噂で持ちきりになったんだってね。
この一言で、興味津々、好奇心旺盛『おうせい』の種に火がつく。
最初のグループからは神崎さんがつかんだ以上の情報は得られなかった。
私は当初話を聞いた三人のうち、あの恋の評論家下坂さんに目をつけ、昼食に誘った。
お昼ご飯を注文して、同じように話題を振った。
「今度は、杉田さんもとばっちりに巻き込まれているようで、かわいそうですね。誰が噂を流したのだろう」
と白々しくもあるが、杉田さんを弁護する一言を付け足した。
下坂さんは杉田さんの良き理解者であると言ってもいい。好意的に感じて知ってることは全部話してと願った。
「私ねぇ、実は、田畠秀人が怪しいとにらんでいるのよね」
そらきた。そこよそこ。この名分析者兼名解説者、あなたこそ情報の打ち出の小槌よ。
師匠、その根拠をお願いします。私は良き情報を、と心で願った。
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