五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」32

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五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」32

 下坂さんがある噂について語った。 「杉田さんと彼女が噂になったときのことを考えて、誰から聞いたのか友達に聞いたことがあるのよ。それで、ひとつ引っかかった情報を得たの。田畠(たばた)が炊事場に来て、『二人が噂になってるらしいよ』と言ってたことを思い出した人がいるの。それとね、けっこう彼女に恨みを持ってるような発言を聞いたことがある人も出てきた。そのとき田畠の目が異様に怖かったらしい。やばいかもこいつ。って感じ。杉田さんのことも悪く言ってそうよ。杉田さんの悪口を言う人は印象に残るからね。田畠を調べていけばなにかわかると思うよ」  私は胸が躍っていた。よし解決の糸口につながる光が見えてきた。内なる喜びを胸に秘めて彼女の話に耳を傾けた。  最後に下坂さんが真顔になって、私に顔を近づけて、周りに聞こえない声で言った。 「あなた、杉田さんの名誉回復のために動いてるんでしょ。たぶん知ってるよね、私、杉田さんが好きなの。若い頃から恋い焦がれてた人なの。杉田ファン。だから、事情をわかった上であなたに情報提供をしてるのよ。彼女とはつき合いがないから好きとまでは言えないけど、最初に聞いた理由なんて取って付けた理由としか思ってないから。あまり私を見くびらないでよね。私、うわべだけで生きてきたわけじゃなから」 「お見それしました」と私は頭を下げた。  下坂さんが席を立ちながら言った。 「今日は割り勘だからね。その代わり、必ず成果を出してよ。また新しい情報が入れば教えてあげる」  私はもう一度頭を下げて、お礼を言った。  この人はただもんじゃない。と思ったのは私だけだろうか。変な想像は横に置いて、私は仕入れた情報を神崎さんにメールで報告をした。すぐに神崎さんから返事が来た。こちらもひとつ手がかりができたとのこと。決戦の日は近いと思った。
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