五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」33

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五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」33

 あれから数日が過ぎた。  彼女は体調が優れないという理由からしばらく休暇を取っている。  会社には親戚の家に身を預けていると連絡をしているらしい。血縁関係者で思い浮かぶ人はいない。おそらく美智子さんのもとへ行っているのだろうと想像がつく。  彼女とはメールで連絡をつけてい。  彼女からは、大丈夫。と返事が戻ってきている。彼女のリフレッシュ休暇と位置づけて、私は噂の首謀者(しゅぼうしゃ)探求(たんきゅう)することに神経を注いだ。  ある日、神崎さんから連絡が入った。今晩、仕事帰りに時間をとってほしいとのことだ。  会社の前で神崎さんと待ち合わせをして、喫茶店へ向かう。相手がそこで待っているという。誰が、の問いに、とうとう見つけた。神崎さんが私に顔を向けて答えた。 「確かなの。間違いない。どうしてわかったの」 「怪情報を送り続けているアドレスの中に、会社で使用されているアドレスが見つかった」 「よくそんな情報が手に入れられたものですね」 「人事部も動き出している。もう個人への誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)だけの問題ではなくなった。会社のイメージダウンにもつながっている。相手が(こば)まずに待ち合わせを約束したことを考えても、まず間違いないと結論づけた。今回、言い訳を並べて言い逃れたとしても、あいつが追い詰められるのは時間の問題だ。卑怯なやつは逃さない」  神崎さんの声に怒りが含まれていた。
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