五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」38

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五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」38

 私は、はっと思い立って、椎名先生に電話を入れた。  彼女は椎名先生のところにはいなかった。  しかし、数日前、急に先生の声が聞きたくなったと言って、電話をしてきたらしい。なにがあったのと椎名先生に訊ねられて、彼女の居場所がわからなくなったことを伝えた。椎名先生も連絡を取り続けると言ってくれた。  みんんが彼女を心配している。私は不安が増幅されていった。まるで世話になった人に最後のお別れでもしているようだ。お願い、神様、どうか彼女が無事でいますように。  私が心の中で願いを込めていると、美智子さんが思いだしたように孫の杉田さんの名前を口に出した。  もしかすると杉田さんならなにか思い当たることが浮かぶかもしれない。  この際、どんなことでもいい。なにか手がかりになるきっかけがほしい。私は杉田さんに連絡をした。携帯電話が鳴り響く、杉田さんは電話に出てくれない。一度、電話を切って、二十分後に電話をかけ直した。今度は五回目で電話に出てくれた。 「先程電話をしたのですが出てくれなかったので」  杉田さんはお風呂に入っていたという。  私は彼女のことについて説明をして思い当たる場所はないかと訊ねた。 「特に思い出せないが」と前置きをして、杉田さんが変なことを言い出した。 「信じてもらえるかどうかわからないが」  ええい、前振りはどうでもいい。早く言ってほしい。と私は心の中で急いた。 「あの、なんでもいいですから言ってください」 「実は、先程お風呂に入ってると、温泉に入っているような気分になったのですが」  杉田さんがなにを言っているのか意味がわからない。  私のトーンが落ちて、呆れたように、 「入浴剤かなにか入れてたのですか」と聞き直した。 「いや、そういうわけではないんです。湯船につかって、ふう、って、温泉に入っているような感覚になったものですから。あの、もしかすると、彼女、どこかの温泉にいるのではないですか。場所まではわからないけど、そんな風に思いました」  この感覚には驚いた。以心伝心、双子のような不思議な直感、知られざる精神のつながり、透視能力、ここまでくればむしろ神がかりだ。なにか思い出せばこちらから連絡をしますと言って私は電話を切った。 「結論的にはわからないらしいです。ただ、詳しいことはわからないけど、温泉に入っているような気がすると杉田さんが話してました」  一同、目を丸くして、一瞬動きを止めた。
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