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五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」39
杉田さんの第六感を信じたのか、信じていないのかは別だが、
「温泉と言えば、椎名先生に聞けば、なにか手がかりになる話を聞くことができるかもしれない」と神崎さんが言い出した。
私はすぐさまもう一度椎名先生に電話をした。
「なにかわかったのですか」と第一声に椎名先生が私に訊ねた。
「いえ、そうではありません」
椎名先生はがっかりしたようだ。私は、温泉について、思い当たる場所はないかと訊ねた。椎名先生はしばらく考えたあと、
「そうね、以前、北海道の登別温泉に行ってみたいわね」と彼女と話したことを思い出してくれた。
「その場所はわかりますか」
椎名先生は旅行会社からもらったパンフレットを探しに行ってくれた。
しばらくしてパンフレットを見つけてくれた。
椎名先生が、確か印をつけてたわよねと調べてくれる。
「あったわ。こことここ」
と二カ所の旅館名と連絡先を教えてくれた。
「彼女がそこにいてくれると安心できるのだけれど、よろしくお願いします」と言って椎名先生が電話を切った。
私は旅館に電話をした。一件目には宿泊していなかった。心に曇りが生まれてくる。二件目に電話をかけた。彼女の名前を伝えて、宿泊をしているかどうか訊ねた。
「個人情報ですのでそのようなお問い合わせにはお応えできかねます」と一件目とは違い不親切な言い方をされた。本来ならこちらの方が正しい応対の仕方なのかもしれないけど……。でももう一度。
「ですから、宿泊しているかどうかを訊ねているのです。どうでしょうか」
「先程も申し上げたように、そのようなお問い合わせにはお答えできかねます」
私の押し問答に業を煮やした美智子さんが電話を代わるようにと私に言って携帯電話を手にした。
「あんた、これはね、人の命に関わる問題なんだ。あの子はそこに宿泊してるのかい」
相手は私のときと同じ対応をしたようだ。しかし、美智子さんは引き下がらなかった。「あんたの立場もよくわかった。もし、本当に宿泊していなかったなら、宿泊していないと答えることができるはずだ。宿泊していないお客を宿泊していないと言っても個人情報をばらしたことにはならないからね。もう一度だけ聞かせておくれ。あの子はそこに宿泊しているのかい」
美智子さんが耳を澄ませた。
「ですから、先程から申し上げていますように、そのようなお問い合わせにはお応えできかねます。もし、お客様が、今日と明日の二泊をご希望なされるのであれば、お部屋をご用意させていただきます」と答えてくれた。
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