85人が本棚に入れています
本棚に追加
/182ページ
一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」18
彼女は、家族に携帯電話を持っていることを伝えていない。
彼女の気持ちはわかる。母親であっても、お金を無心することしか言わない人に、いつでも連絡を取れるようなことはしたくないだろう。
彼女は、親から金づる程度にしか思われていないんだ。
初めて彼女と話をしたとき、「仕送りなど大変なんですね」と私が言えば、「それだけのことですから」と彼女は言った。
あのときは仕送りをしているだけで、ほめてもらうようなことではない。と彼女が謙遜しているのだと私は受け取った。
でも、そうじゃない。家族愛や親への思いではなく、家族とのつながりはお金だけ。ただそれだけの関係だと言いたかったのではないか。目の前の親の態度を観て、こんな発言を聞いていると、彼女はなんて寂しい人なんだろうと感じた。
また、彼女の質素な生活、着飾らない衣服を思い出せば、私には想像もできなかった異形の家族だ。
私はどろどろと澱んだたたかりの池から一刻も早くこの身を解放したくなった。
私が家を出るとき、「あの子にもっと仕送りをしてくれるように言ってちょうだい」と母親から再度伝言を頼まれた。
彼女の苦労などまったく報われない言葉が背中にあたった。
彼女が苦労しながらがんばっていたことに対して、家族からは感謝されることもなく、不満とお金をたかる言葉しか口に出さなかった。どんなにがんばっても褒めてもらえない。快い返事はかえってこない。
何のために彼女は。
喪失が渦巻く奥底に吸い込まれるような感情。
栄養分がしおれて、生が枯渇するような感情。
前向きな感情をすべて消し去るような家族観。
私はめまいさえおぼえた。
最初のコメントを投稿しよう!