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一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」19
新しい空気を吸ってしばらく歩いていると、おばさんが私の方に近寄ってくる。
「三田さんの家でなにかあったの」
第一声は興味津々の声だ。
私は第三者向けの説明をした。
「祥子ちゃんのことでわざわざ実家まで来たの」
彼女の名前をちゃん付けで呼ぶおばさん。
おばさんは近所に住んでいる方で、彼女のことを小さい頃から知っていると話した。
当然、私はこのチャンスを逃さない。
彼女は小さい頃から人見知りをする子で、おとなしい性格の子らしい。こちらからあいさつをすると、返事はしないがぺこりと会釈をしたという。
小学生の頃には笑顔を見せてあいさつをするようになった。
だが、中学生になった頃、暗い表情を浮かべるようになり、無口になった。
その頃、よく母親から叱られている姿をみかけたという。
「もしかしたらそれで萎縮してしまったのかもしれないわね。それでも同年代の子と比べたら感心な子なのよ。中学生の頃、妹が生まれてね、家計の助けになるように新聞配達もしてたからね。この先、百メートル行った所を右に曲がると新聞屋さんがあるからそこで話を聞くと良いわ」と教えてくれた。
続けておばさんが話し出す。
「でもいつ頃だったかしら、そうねぇ、高校三年生くらいに、あの子、ぐれちゃってねぇ」
おばさんが興味を引く話題を始めた。
ぐれたとは、人見知りをする子という情報と、今の彼女からは違和感を持つ話だ。
「不良達とつきあっていたのですか」と訊けば、「あの子はいつも一人でいたし、そんな風には見えなかったけど、夜遅くまで出歩いていたようね」と曖昧な返事する。
「ようねとは、どういうことですか」
「お母さんが、『最近、家を出歩いて帰ってこない日もある』とか言って怒っていたときもあったからねぇ」
「学校も休んでいたのですか」
「学校はちゃんと通っていたように思えたけど。他人の家のことだから詳しくはねぇ」
と、はぐらかされた。ということは、確証がないわけだ。少しほっとした。
急におばさんが思い出したように声を上げ、
「そういえば高校二年生くらいのときかな、あの子が泣きながら帰る姿を見たわね。あの頃になにかあったのかもしれないわ」
おばさんに理由を訊ねたが、それはわからないわよと話が終わった。
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