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一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」22
私は彼女の同級生の元へ直行した。
中田さんは子供を抱いて玄関先まで出てきてくれた。
私が彼女の名前を伝えたとき、中田さんは初めキョトンとした表情を浮かべた。そして首を傾げた。中田さんが家の中に向かって友達の名前を呼んだ。しばらくして乳児を抱いた芝木さんが廊下に現れた。彼女の名前を伝えて、知ってると訊ねた。芝木さんも同じく首を傾げて考えている。私が彼女の特徴を口にすると、やっと思い出してくれた。
だが、「あの子、死んだんじゃないの」とビックリする認識を打ち明けられた。
私は、彼女たちのあっけらかんとした表情を見て、あらゆる感傷が消し飛ばされるような衝撃を受けた。
私はすぐさま否定して、どうしてそう思っていたのか理由を訊ねた。
中田さんは、高校卒業後、二年間続いた同窓会の幹事を受け持った。同窓会名簿に記載された実家の住所に二年連続案内ハガキを送付したが、二回とも出欠の返事はなかったという。それ以来、彼女は高校卒業後に失踪したとか、病気で死んだとか、事故で亡くなったらしいとか、彼女が存在しない噂が広まったそうだ。
実際、高校卒業後、同級生で彼女と会った人は誰もいないという。
「へぇ、生きていたんだ。知らなかった」と興味のない返事をする。
同窓会の往復郵便ハガキは彼女のもとへは転送されず、親がゴミのように廃棄したのだろうと想像できる。おそらく彼女には伝わっていない。
それにしても彼女たちのこの反応はあまりにも無関心すぎる。
同級生達の中に存在する彼女を思えば、どういう気持ちで思春期を過ごしてきたのだろうか、想像もできないだけに哀れをさそってしまう。
私が彼女の立場なら耐えられるだろうか。
私には無理だ。
虚しすぎるし、辛すぎるし、悲しすぎる。とても残酷な話だ。
私は彼女のことをもっと詳しく知りたいと思った。
彼女のことを知る人が他にもいませんかと訊ねた。そんな人はいなかったと言う。別にいじめられてたわけではなく、クラスの存在として薄かったのだ。彼女が誰かに話しかけるでもなく、クラスメイトが彼女に話しかけるわけでもなく、居るのか居ないのかさえ気づかない人の方が多かったと。
同級生達の記憶の中に彼女は存在しないという現実。
なんて寂しくて悲しいことなんだろう。
ひとつ思い出してくれたのは、保健室によく行ってたらしい。いつも顔色が悪くて、気持ち悪いと言ってた人がいたくらいだから、実際、誰も近づかなかったんじゃないと締めくくる。
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