一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」26

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一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」26

 わたくしは思い切って中学の頃について訊ねてみました。  彼女はポツリポツリと語ってくれました。  小学校までは周りの子と変わらず、普通に友達と遊んでいたと。  家庭環境が変わったのは妹が生まれてからだと告白してくれました。  両親の愛情は百八十度方向を変えて妹に注ぐようになりました。妹は幼い頃、よく熱を出したり、病弱でしたので、目が離せないという理由からだと思います。それ以来、私は両親の背中だけを観ているような気持ちでした。と沈んだ声で言ってました。  彼女の不幸はそれだけではありませんでした。お小遣いはおろか、学校で使う文房具用品を買うお金ももらえなくなったのです。  お金がほしけりゃ働けと言われたそうです。  彼女はそれから新聞配達のアルバイトをするようになったのです。  それでも彼女は月に一度の外食が好きだったようです。母親がいつもより優しくなり、周りに笑顔を振りまいていたようです。小学生の頃の母親が戻ってきたようだと笑顔を見せて語ってくれました。  これはわたくしの意見ですが、ご両親は見栄っ張りなところがあって、外面(そとづら)が良かったのです。ですから、外食をすれば世間体を気にする両親がいて、明るい家族を演じていたのでしょう。彼女にとっては月に一度の至福(しふく)の時でしたが、それも長くは続きませんでした。  妹が三歳になった頃、彼女は外食に連れて行ってもらえなくなったのです。なぜだかわかりますか。  私は顔を左右に振って次の言葉を待った。  妹がそれくらいの年になれば、お子様ランチなど一人前を注文するようになります。外食の出費がかさまないようにと、母親は彼女を一緒に連れて行かなくなりました。いわば口減らしです。お店では、難しい年頃になったとか、外食をするのが嫌いになったとか、イメージの悪い言い訳を言ってた様です。  わたくし、一度、家族の三人が外食をしているとき、お店で出会ったことがありまして、そのとき、こっそりお店の人に聞いたことがあるのですが、呆れた気持ちと怒りが湧いてきました。  家ではテレビのチャンネル権が父親にあったようです。毎晩と言って良いほど、野球中継を観て、野球放送がないときは、格闘技関係の番組を観て、同姓代の子が観るような番組は観せてもらえなかったようです。となれば、学校で同級生との話題についていけない。家庭環境から彼女の表情にも笑みが消えていく。彼女の異変を感じた友達は距離を置くようになります。当然、携帯電話など持たせてもらえない。中学三年生になる頃には彼女の周りには誰もいませんでした。
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