一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」27

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一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」27

 わたくし、一度だけ中学時代の担任の方に、彼女のことについてお話をうかがいに行ったことがあります。中学一年生の頃は明るい子のようでした。  二年、三年と進学するにつれて印象の薄い子になった。表情が暗くなると周りの人も近づかなくなった。クラスでも孤立していく。性格も暗くなる。社交性がひとつひとつ削り取られていく。なにかに耐えて、じっと自分の席に座っている感じだと。ですが授業中にあてれば、一応答えるので、授業はちゃんと聞いているのだと認識していたと話していました。ひとつ記憶に残っているのは、彼女は卒業旅行に参加しませんでした。体調が悪くて、旅行するほど体力がないと説明していましたが、よごれた服装や毎日おにぎり二個だけの昼食を観ていたので、生活が苦しいのかなと思い、先生からもご両親にお願いをしようかと提案をしたのですが、無理ですときっぱり言われたそうです。生活が苦しいとは言いませんでしたが、本当のところは親に頼んでも旅行費を出してもらえなかったのでは、と思った。担任であっても家庭の事情に口を(はさ)めないところもあったようですね。  高校に入学してからも彼女の生活は変わりませんでした。  変わらない生活というのは、アルバイトをしても、バイト料の半分以上は母親に奪われていたのです。子供が大金を持つもんじゃない。将来ろくな人間にならない。稼いでいるなら家に入れろ。とか、ほめられるでもなく、感謝されるでもなく、ありがたがられるわけでもない。命令調で文句を言われ、当たり前のように搾取(さくしゅ)されました。彼女は日に五百円くらいで生活をしていたのです。当然その中で文房具や生活用品をやりくりしていたのです。遊びたい盛りに、洋服や小物など持ちたいものはいくらでもあったのに、彼女は手にすることなどできませんでした。それでも彼女はなにかあったときのために、毎月小銭を大切に貯めていたのです。  高校二年の頃、事件が起きました。  彼女は誰にも迷惑をかけずにこつこつ努力をして工面してがんばっていたのに、ある日、わたくしが保健室に戻ると、彼女がいつの間にか来ていて、ベッドで激しく泣いていたのです。彼女が泣いているのを見たのはあれが初めてです。とても忍耐強い子が泣きじゃくっていました。わたくしは彼女が泣き止んで落ち着くのを見計らってから声をかけました。彼女は声を詰まらせながら打ち明けてくれました。
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