一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」29

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一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」29

 高校三年生になって、彼女は進学したい。将来を考えれば学歴が必要になるとわたくしに相談を持ちかけました。それはとても良いことだとわたくしも賛成しましたが、ひとつ問題がありました。進学するとなればそれ相応のお金が必要になります。それで彼女は新聞配達に加えて、平日は放課後から夜の十時まで。土曜日、日曜日は朝から夕方までコンビニでもバイトをするようになりました。受験勉強は学校の授業時間のみです。金曜日や土曜日にはわたくしの家に泊まりに来るようにもなりました。夕食時にはおかわりもするようになり、顔色も以前とは比べようのないほど血色がよくなりました。優しい顔つきや無防備ですっかり安心した表情をして寝ている彼女を見ていると、思わず涙が出そうになったり、彼女を抱きしめたくなる衝動に襲われたこともありました。  一年間、彼女はへとへとになりながらも本当によくがんばったと思います。  ですが、私たちには乗り越えなければならない問題が他にもありました。  彼女はアルバイトを増やして、着実にお金を貯めていましたが、進学ともなればいろいろとお金が必要になります。大学に入学できても高い入学金を納めなければならないし、大学の授業料も安くはありません。それに引っ越しの費用や部屋代や敷金礼金も必要になります。親の助けもなく独り立ちして生きていくには、厳しい現実が待ち構えています。  まず、入学金はわたくしが立て替えることにしました。あるとき払いの催促なし。彼女が社会人なって、少しずつ返していただくという約束でわたくしが立て替えました。  次に住む場所を探すことにしました。わたくしは保護者代理ということで彼女と一緒にいろいろ相談をしながら探していたのです。わたくしが、朝夕食事付きの寮を見つけ、そこなら少なくとも食いっぱぐれがないので安心だと言えば、彼女が難色を示しました。理由を訊ねてみると。食事付きだから寮費が高すぎると二の足を踏んでいたのです。  もし生活が苦しくなれば、数万円の負担分はわたくしが立て替えましょうと提案をしました。彼女がそこまで甘えてはと言いかけたのですが、もう充分甘えているではありませんか、ついでにですよ、ついで。とわたくしが笑って冗談ぽく言えば、彼女は顔を赤らめて申し訳ありませんと頭を下げました。あのときわたくしも悪のりをして、あなた、どんなことがあっても自分勝手に死なないでよ。貸したお金を黙って踏み倒すと承知しないわよ。と釘を刺しました。彼女は手を左右にふりながら、けっしてそんなことはしません。たとえそうのような状況になっても歯を食いしばって借りたものは必ず返してからにします。と真顔で言うから、わたくし、おかしくて、おかしくて、なにを言ってるの。どんなことがあっても生きていきなさいという意味よ。とわたくしが笑いながら言うと、今のは冗談ですか。と彼女も一緒に笑ってました。
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