一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」30

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一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」30

 入学とか引っ越しなど、日本ではなにかにつけて保証人が必要となってきます。  保証人の件については、すべてわたくしが背負うことにしました。  親の承諾関係については、わたくしが父親と会って、はんこを押していただきました。  母親のいないときを見計らって、父親に直談判をしたのです。今ここではんこを押して、お礼として一万円を受け取るか、このまま彼女が消えて、なにも手に入らなくなるか、どちらが得か考えてください。と迫ったのです。けっして奥さんにはなにもいいませんからと付け足しました。父親はしぶしぶながらも親の承諾が必要な書類にすべてはんこを押してくれました。  次に、授業料の関係です。日本にも奨学金制度はありますが、諸外国のように優秀な成績であれば無料になるという制度はほとんどありません。卒業後には返済しなければならないのです。結論としては、勤めてから返済していくことに決めました。  卒業間近には、彼女の預金は百数十万円ほど貯まっていました。工面してもどうしても入り用になることもありますので、預金はいざというときのためにわたくしが引き続き保管することになりました。  彼女は大学を卒業するまでアルバイトをして生活をやりくりをしました。ほんとによくがんばったと思います。その間、彼女とのやり取りはほとんど手紙でした。帰省するには交通費が負担になりますからね。彼女は年に何回かは顔を見せますと言ってくれましたが、無駄なお金は使わないようにとわたくしが彼女を説得しました。  彼女は、大学の夏休み、冬休み、春休み、になると必ずアルバイトをして、お金が入ればわたくしのところに会いに来てくれました。年に三回、彼女の顔を見るのが楽しみでした。わたくしが退職するときには膝掛けなどプレゼントをしてくれました。優しい子です。あんな良い子を邪険(じゃけん)に扱う親がいるなんて信じられない気持ちです。  私は気になっていたことを椎名先生に訊ねた。 「どうしてそこまで彼女の面倒をみることができたのですか?」 「彼女が入学する前に、わたくしの夫は癌で他界しました。まだ五十代の若さでわたくしを置いてけぼりにしたのです。子供を授かることはできませんでした。ぽっかり穴が開いた寂しさもあったのだと思います。あの子の純粋さを知れば、かわいくてしょうがなくなりました」
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