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二 「愛しているかと訊かれると」1
私は先日聞き取った内容をノート・パソコンに書き残し、読み返しては訂正をしたり、思い出したことはすぐに書き加えて、彼女の軌跡をまとめた。
記憶の中に彼女の生い立ちがすり込まれていく。
作業中、場面を想像し、彼女と自分を同化させてゆく。彼女はどんな思いを抱いて生きてきたのかを思い描く。彼女に近づきたい。思いはひとつである。
彼女の思春期をまとめていくうえで気になることがあった。
「数年前から彼女には支えてくれる友人ができました」と椎名先生が微笑んで言ったことだ。思い出せば杉田さんのことが浮かんでくる。
やはり、彼女と杉田さんの間には、なにかあったのだと結びつく。ただ、椎名先生が杉田さんのことを「友人」と表現したことにも注視した。
杉田さんはすでに離婚している。杉田さんは自由だ。誰と恋愛関係になろうとも非をあびることにはならない。なのに椎名先生はあえて「友人」と表現した。そこから導き出せる結論は、二人の間には恋愛感情がなかったことにつながっていく。
本当だろうか。あえて彼女のために隠しているとも考えられる。
椎名先生はそんな姑息な人だとは思えないけど。考えがまとまらない。判断が揺らいだ。
次は、彼女に会いに行くべきか、杉田さんに会いに行くべきか、私はずっと考えあぐねた。彼女のことについて少なからず知ることができた。その行為を、一歩前進を、杉田さんはまだ知らない。その状況で会いに行っても、前回と同じように門前払いをされてしまう。となれば、やはりもう一度、彼女と話をして、人として彼女との関係をつなげる努力と状況の変化が必要だ。
次の行為は決まった。
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