85人が本棚に入れています
本棚に追加
/183ページ
二 「愛しているかと訊かれると」2
私は彼女と会う約束を取り付け、日曜日に出かけた。
彼女ともう一度会える。はやる気持ちから早く出かけすぎて、最寄りの駅に一時間も早く着いてしまった。
私は時間つぶしにファーストフード店に入った。
隣の席には二人の女性が会話をしている。周りに気遣いもなく、わりと大きな声で話をしている。否が応でも会話が耳に届いてくる。私と同方向に座っている女性が一方的にしゃべっている。向かいに座る女性がうなずきながら聞き役に徹している。聞かされる方はストレスが溜まるだろうな。大変。
内容は会社の不満を並べている。おそらく会社の上司に励まされたことに対して不満を抱いているようだ。「君には期待しているよ」と言われたことに、ぐちぐちと文句を並べているのだ。
「じゃあ、他の人には期待してないのかよ」とか「今の私は評価が低いのかよ」とか「なにかひとつでもほめてみろよ」などとストローで氷を突きながら愚痴っている。
言葉が汚いと言うか、口が悪いというか、まるで男みたいな口調だ。励まされていることに対して素直に喜べばいいことなのに、目くじらを立てるようなことではない。
愚痴を聞かされている相手が、「そういう意味じゃないと思うけど」と上司を弁護したり、「あなたが目をかけられている存在だから」と彼女をフォローしても、他人の言葉を聞き入れることはないようだ。カッカッと氷を突っついてトイレへと席を立った。
彼女の姿が視界から消えると、相手の女性がうんざりした表情を浮かべ、ため息をつき、疲労感に押しつぶされるようにテーブルにうなだれていく。
愚痴を聞かされる人の気持ちはわかる。しかしながら、疲れたでしょ。なんて言葉をかけられるわけがない。私は彼女がトイレから戻ってくる前に席を立った。
最初のコメントを投稿しよう!