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二 「愛しているかと訊かれると」3
ふと彼女の実家を訪問したときのことを思い出した。
実家をあとにしたとき、急に私を襲ったのは、たとえようのない焦燥感だ。
これから彼女と会う約束をしているのに、縁起の悪い場面に遭遇したものだ。私は気持ちを切り替えたくてゆっくりと歩を進めた。
私はドアの前で深呼吸をして声をかけた。彼女がドアを開いた。
彼女の表情は前回と変わらず、緊張感なのか、警戒しているのか、はたまた不愉快なのか、表情が硬い。今回は訪問する理由も理解できているはずだ。どうにか彼女の部屋に招き入れてくれた。私は前回と同じように対峙した。
「今日は時間を取っていただきありがとうございます」と私が頭を下げると、私の頭上に彼女の声が届いた。
「あれから私のことをいろいろ嗅ぎ回っているようですね」
彼女が人聞きの悪い表現で私の行為を責める。
私は、二人について、事の心を知るに至った真意を包み隠さず話すことにした。
まず、会長から当時のことに関して具体的に事情や経緯を調べるように指示が出たこと。
また、うわべの状況報告なら必要ない。そんなものは人事課に聞けばわかる。うわべの体裁理由は知っても意味がない。人間関係から生み出されたもの。深い事情を突き詰めなければ、正しいものが見えてこない。と言われたこと。
そして彼が自らトラブルを起こすような人間ではないこと。
杉田さんが会長から信頼されており、杉田さんは濡れ衣を着せられたのではないかと疑問を抱き、杉田さんをとても案じていること。
それから現在もなにかトラブルが起きており、原因は単純なミスから起こりえたことであること。
だが、そんなミスをおかすような人ではないこと。なにか第三者の意図が見え隠れしているようだ。と話していたことを正直に伝えた。
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