85人が本棚に入れています
本棚に追加
/183ページ
二 「愛しているかと訊かれると」5
「紅茶でも良いですか」
彼女が背中を向けたまま私に訊いた。
ふっ、と全身の力が抜けた。良かったぁ。
それはそうだよね。いくらなんでも短絡過ぎてそんなことにはならないわよね。
私はなにを怯えているんだろう。
静かに息を吐き出した。
私は彼女に気づかれないようにゆっくりと姿勢を戻した。
でもまだ身体が強ばっている。正座をして、膝上に両方の手のひらをつく姿勢をとる。
彼女が振り返って、もう一度私に訊ねる。私はぎこちない笑みを浮かべてうなずいた。
彼女が紅茶を手にして私との対峙席へ戻ってくる。
私と目を合わせた彼女が前置きを口にした。
「故郷の人たちからいろいろ話を聞いて、それなりに私の性格はつかめていると思いますので、私からはなにも弁解するつもりはありません。それに、性格というのは自分で伝えるものではありません。他人が感じて判断するものです。人それぞれで、感じ方や判断がわかれますから、私をどう思うのかは、あなたがご自分で判断してください」
確かにそのとおりだ。ある人には優しい人に思えても、別の人にとってはきつい人に思える人もいる。人には相性というものがあるから、統一見解など求められない。
私は了承の意味でしっかりとうなずいた。
「どこから話をすればいいのでしょうか、家族については出会ったとおりの印象で間違いないと思います。故郷で周りの人から話を聞いてきたはずですから、東京へ来たときのことから話せばいいのですか」と彼女が私に問う。
私は重複した話でもいいからあなた自身の言葉で話して欲しいと望んだ。
「話せることだけになりますが」
彼女が条件をつけて封印した記憶をたどっていく。
最初のコメントを投稿しよう!