二 「愛しているかと訊かれると」6

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二 「愛しているかと訊かれると」6

 彼女が生まれたときは、両親も喜んでくれて、大切に育てられたようだ。  大切にというのは、誕生日、クリスマス、七五三、中学の入学式までは他の家庭と遜色(そんしょく)なく祝ってくれたということ。  彼女の転機は、やはり妹が生まれてからになる。  話は中学の頃に遡る。  妹は幼い頃、病弱のため手のかかる子で、両親の目は妹に注ぎ込まれる。中学生ともなれば、自分のことは自分でできるまで成長している。あくまでも生活において、親の保護、親の支援があっての話である。  彼女の面倒は次第にほったらかしにされる。通院費や溺愛(できあい)による(かたよ)りから彼女への金銭的な保護が薄れていく。家庭において、彼女の優先権はすべて奪われてしまう。お小遣いももらえず、家でのチャンネル権も失い、娯楽というものは剥奪(はくだつ)された。ドラマ、音楽、おしゃれ、などに接する機会もなく、与えられることもない。思春期の同級生たちとの共有感をそぎ落とされてしまう。話題についていけず、行動も制限される。同級生とは距離が生み出されてくる。休憩時間や放課後におしゃべりをしていた人たちが、一人離れ、二人離れ、誰も彼女と話すことがなくなった。  物やお小遣いを与えられなかったことで、携帯電話など持つことを許されなかった彼女は、ネットでのいじめは知り得る手段がなく、当初は存在したのかもしれないが、直接的ないじめは姿を消すことになる。彼女は不幸中の幸いだと語った。  しかしながら、彼女はクラスの中で存在しない人となる。  同級生から彼女の印象を聞いた話でも伝わってきたことだ。  教室の喧噪は、街の喧騒と同じだ。周りは騒がしくとも、誰一人として彼女の存在には興味を示さない。同級生は街を歩く他人と同じで、彼女には関心を示さない。 「他人は私のことをなにも知らないし、気にもかけない」と彼女がはっきりと言った。  愛情と無視はコインの裏表と同じで、真逆の感情を合わせ持つ。いつなんどき、どちらの顔が向けられるのかわからない。なのに、コインでさえ裏表があるにもかかわらず、彼女は無視され続けたのだ。
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