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二 「愛しているかと訊かれると」10
彼女は勝ち気な人と同じように強がりを持ち続けたのではないか。
生きるための手段として、生命を維持する手段として、意地を張り続けたのではないか。
彼女が生命力のたくましい人に思えた。
私は一歩踏み込んで彼女に恋人はいなかったのか訊ねた。
彼女はドキッとしたのか、瞬時に顔を上げ、そんな人、いるわけがないでしょ。とすぐさま否定した。
一瞬、赤くなっている彼女の耳が顔をのぞかした。
「あなたは先ほどから、そんな時間などないと、私の話を聞いていたのでしょ」
彼女は怒っているのではなく、不機嫌になったのでなく、動揺したようで、慌てていたのだ。異性のことを聞かれて動揺するなんて、ピュアでかわいいと思った。
一歩踏み込んで考えれば、同級生は彼女のことを意に介していない。彼女についての記憶や想い出さえも残していなかった。彼女は故郷で存在しない人間となってしまったのだ。彼女の思春期や青春時代には心の共有者もなく、孤独と悲哀が背中合わせになって潜んでいたのだと再認識させられる。一事が万事。彼女は中学からずっとすべての感情を押し殺して生きてきたのだろう。
実際、生活面においても、贅沢なものは受け入れず、なにもかもが純粋な心で整理された環境で生きてきた。
私には耐えられなくて、とても受け入れることができない境遇だ。
彼女にとって椎名先生の存在はとても大きな存在だといえる。
彼女の人生において、もう一人、大事な人がある。本当か噂なのか、まだわからないが、彼女の人を閉ざす心のノブを、手にして開いた杉田さんの存在が気になる。先日の出会いからして、明らかに彼女はガードを堅くして杉田さんを守ろうとした。嘘であっても、噂になるくらい、彼女は杉田さんを受け入れることができたのだ。なにがきっかけでそうなったのか。彼女の心の変化を知りたい。
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