二 「愛しているかと訊かれると」16

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二 「愛しているかと訊かれると」16

 炬燵(こたつ)の上が片付いて、いよいよ第二幕が始まろうとしている。 「杉田さんについてこれからお話をします。前置きしておきますが、あの人は恋人ではなくて、私の家族ですから」  冒頭にとんでもない告白をされた。  えっ、と面食らって、なにも聞けずに口ごもっている私を置き去りにして、彼女がおかまいなしに話をつづけた。  彼女が総務課に勤務して二年目のこと、杉田さんが異動で同じ職場になった。  彼女が三十二歳になる年のことだ。これを運命の出会いと言っていいのかはまだわからない。少なくとも、彼女の人生の中で、恋という名の心の動きが芽生えたのはこの時期だろう。  彼女が夢に見たのかどうかは定かではないが、当時においては、白馬の王子が幸せをもたらすにはいたらず、恋愛において模索の時代を過ごしていたのかもしれない。親しみなのか、信頼なのか、はたまた恋なのか、尊敬なのか、判断がつかない時期だと思う。  やはり恋愛はタイミングだと思う。  異性を受け入れられる状況が整わないと成就しない。と思うのは、やや断定的な見解かもしれないけど。  杉田さんの印象を訊いたとき、 「杉田さんは、(しずく)の光をくれたひとです。(こぼ)れた雫から放たれた光の輝き。太陽の光のようにずっと差し込む光ではなく、一瞬の光」  とあまりにも抽象的で、私にはピンとこない表現で彼女が説明した。  告白の第二幕、聞き返して出端(でばな)()ることはしたくないので、そのまま話を黙って聞いた。  私は区切りのついたところで、杉田さんと初めて会ったときの印象を訊いた。 「不思議ですが、ほんとうに初対面なのに、なぜか懐かしい人と出会ったような、初めてではないような気がしました」  のちに、彼女は杉田さんの印象について、杉田さんをしっかり抱きとめている感じで、 「孤独な人だと感じました」と述べている。それはさておき、二人の日常がいよいよ始まる。
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