一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」6

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一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」6

 休み明け、彼女と同じ職場である、柳原(やなぎはら)美樹(みき)(28歳)、由井(ゆい)世志乃(よしの)(30歳)、下坂(しもさか)めぐみ(34歳)を夕食に招待した。  今回の話は、社内ではできないと思ったし、気さくな雰囲気がなければ本音トークは導き出せない。でもこの費用って、諸経費として認めてくれるわよね。多少の不安を持ちつつテーブル席に着いた。  私は呼び出した理由を三人に説明した。 「今回、ある企画を検討しています。誰もが仕事を進めていく上で、まったく知らない他人に物事を依頼するよりも、多少なりとも相手を知っていたり、顔見知りならば、最初の取っ掛かり方が違ってきますよね。依頼する方も依頼される方も接し方が違ってきます。この企画は社内間の交流がうまくいくように、人間関係の潤滑油的な取り組みになります。そのために職員にスポットをあてて、社内報で紹介していきます。好評で発行が続けられるようになれば、あなた方にも取材を受けていただきたいと考えています。社内報を見た男性職員からアプローチも生まれるかもしれませんよ」  この説明には三人の目に輝きを持たせた。 「今回は総務課の三田祥子さんにスポットをあてたいと考えています」  一瞬、三人の表情に曇りが生み出された。ため息を漏らした人もいた。  私は彼女たちの意に沿うように呼び出した理由を付け足した。 「しかしながら、本人のアピールだけでは、一方的な美談になりかねません。どこにでもあるような、社交辞令的な紹介は避けたいと思っています。人間性に踏み込んだ内容にしたいと考えています。そこで。多少なりとも欠点のような、たとえばおっちょこちょいな面や天然的なおちゃめな面といったエピソードも盛り込んだ紹介ができればと考えています」  私がそこまで説明をすると、三人が目の輝きを取り戻した。  彼女たちの記憶では、彼女の印象はとても地味で極度の人見知りなのか、あいさつ以外は、ほとんど会話をしたことがないという。  誰かが総務課に着任したときは、課内で歓迎会など交流の場をいくつか設けているという。しかしながら、プライベートの時間帯で、彼女だけが社内の人間とつきあうことはめったになかったという。特に会費制の飲み会では一度も参加しなかったようだ。当然、つきあいが悪いと非難される。イメージが悪くなる。「貯金が趣味の女だから」と悪い噂も聞いたことがあると話した。  誰も相手をしないから、今から一人でも生きていけるように、老後のために貯金をしているんじゃない。とだめ押しの非難をする。
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