二 「愛しているかと訊かれると」37

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二 「愛しているかと訊かれると」37

 私は「他人には」という表現に注目した。二人の間には「他人」という概念がない。もっと親密なつながりがあるということだ。彼女が気づいていない愛だとすれば、二人は、と(かん)ぐってしまいそうになる。  椎名先生が彼女に「友人」ができたと話をしたことがある。「恋人」ではなく確かに「友人」と表現した。椎名先生は嘘をつかない。話してはいけないことには口をつむぐだろう。  彼女は杉田さんが異性であっても、思いは恋ではないと位置づけられるなら、二人はどんな関係なんだろうか。不可解と言えば不可解なことである。よしんば、彼女の意思を尊重すると、男と女の友情は成立するのだろうか。  世間では、友達であったとしても、男は女友達を異性として観ているとよく聞く。友達であっても同性ではないのだ。  では、杉田さんが抱いている彼女への思いというのは、もっと違う感情があるっていうことになる。男でもなく、女でもない。異性間を超えた特別な感情って、いったいなんなの。なにがあるの。私はさらに深く聞きたいことがあったけど、彼女は私たちの時間を止めた。  帰り道、私は彼女のこと考えていた。彼女の言葉を振り返る。杉田さんとの出会いとふれあい。他人からすれば、平凡で日常的なことであっても、彼女には(せい)歓喜(かんき)にふれあえた瞬間かもしれない。雫から零れた一瞬の光なのだ。私はもっと彼女のことを知りたいと思った。知らなければ真意にたどり着けないと考えた。それ以上に、私は彼女とわけへだてなく話せるようになる日はくるのだろうか。仕事を忘れて、仕事を離れて、人として、私は彼女との関係を維持したい。守りたいと切実に願った。 【第二話:了】
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