91人が本棚に入れています
本棚に追加
三 「君がそこまで言うのなら」3
杉田美智子さんはまだ、気構えの検閲、姿勢の関所、礼儀の国境に立ちはだかり、私的エリアには踏み込ませてもらえない。視線を外さず、私の人間性を見透かそうとしている。
落語で言うところの枕詞が長々と続いているようだ。けん制する会話が続く。
「小競り合いのような会話はもうよしとこうかね。ちょいと意地悪がすぎたようだね」
私ははっとして美智子さんの顔に目を向けた。
美智子さんは正座になり、私にまっすぐ目を向けた。
私は知らず識らずのうちに頭が垂れていたようだ。
「孫は、自分がしてきたことには言い訳をしない。全部受け止めて生きていく決意を持っている。あたしゃ、他人の噂を聞いて相手を判断しない。ちゃんと自分の目で見て人を判断するからね。あんたの覚悟のほどを聞かせてもらおうか」
「覚悟と言えるほどのものを持っているのかは私にはわかりません。ただ、今回の件は噂どおりではない真意が隠されている。と考えている人がいます。私もそのように思えることがあります。まだ、はっきり結論がでたわけではありませんが」
「孫だけを調べているんじゃないんだろ。相手の女のことも調べているのかい」
「一方的な話だけで結論づける気はありませんので。実は、噂になった女性とは、何度か話を聞かせていただいてます」
「うちの孫をたぶらかした女は、どんな子だい」
「たぶらかすようなことをするような女性ではありません。知的で純粋さを持った方です」
「じゃあ、どうして、孫が左遷されるようなことになったんだい」
「その真意を知りたくて、関係者の方からお話を聞いています。噂はいろいろ取り沙汰されましたが、悪い噂をそのまま信じるには腑に落ちないことがいくかあります。また周りの方からお話を聞いても、人を貶めるようなことに無縁の二人だと思っています」
「あんた、その女に同情でもしてるのかい」
「同情はしていません。そんな失礼な気持ちは持ち合わせていません。初めは仕事上で、彼女と関わるきっかけがあったので、いろいろ事情を聞かせていただいてましたが、今は友達としても関わっていきたいと思っています。彼女はそんな風に思える人間性を持っていると私は思います」
私は晴れがましく伝えて胸を張った。
「あんた、わかってるね」
美智子さんが如才ない微笑みを浮かべた。
最初のコメントを投稿しよう!