三 「君がそこまで言うのなら」3

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三 「君がそこまで言うのなら」3

 杉田美智子さんはまだ、気構えの検閲、姿勢の関所、礼儀の国境に立ちはだかり、私的エリアには踏み込ませてもらえない。視線を外さず、私の人間性を見透かそうとしている。  落語で言うところの枕詞が長々と続いているようだ。けん制する会話が続く。 「小競(こぜ)り合いのような会話はもうよしとこうかね。ちょいと意地悪がすぎたようだね」  私ははっとして美智子さんの顔に目を向けた。  美智子さんは正座になり、私にまっすぐ目を向けた。  私は知らず識らずのうちに頭が垂れていたようだ。 「孫は、自分がしてきたことには言い訳をしない。全部受け止めて生きていく決意を持っている。あたしゃ、他人の噂を聞いて相手を判断しない。ちゃんと自分の目で見て人を判断するからね。あんたの覚悟のほどを聞かせてもらおうか」 「覚悟と言えるほどのものを持っているのかは私にはわかりません。ただ、今回の件は噂どおりではない真意が隠されている。と考えている人がいます。私もそのように思えることがあります。まだ、はっきり結論がでたわけではありませんが」 「孫だけを調べているんじゃないんだろ。相手の女のことも調べているのかい」 「一方的な話だけで結論づける気はありませんので。実は、噂になった女性とは、何度か話を聞かせていただいてます」 「うちの孫をたぶらかした女は、どんな子だい」 「たぶらかすようなことをするような女性ではありません。知的で純粋さを持った方です」 「じゃあ、どうして、孫が左遷されるようなことになったんだい」 「その真意を知りたくて、関係者の方からお話を聞いています。噂はいろいろ取り沙汰されましたが、悪い噂をそのまま信じるには()に落ちないことがいくかあります。また周りの方からお話を聞いても、人を(おとし)めるようなことに無縁の二人だと思っています」 「あんた、その女に同情でもしてるのかい」 「同情はしていません。そんな失礼な気持ちは持ち合わせていません。初めは仕事上で、彼女と関わるきっかけがあったので、いろいろ事情を聞かせていただいてましたが、今は友達としても関わっていきたいと思っています。彼女はそんな風に思える人間性を持っていると私は思います」  私は晴れがましく伝えて胸を張った。 「あんた、わかってるね」  美智子さんが如才(じょさい)ない微笑みを浮かべた。
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