三 「君がそこまで言うのなら」6

1/1
前へ
/185ページ
次へ

三 「君がそこまで言うのなら」6

 どちらか一人を選ばなければならない。  苦渋の選択を強いられた母親は、酒浸りの父親のそばに幼い妹を置いて別れるのはとても心配だ。まだ幼いと言っても息子は男だ。息子ならがんばってくれるだろうと決心をした。母親は子供のためにがまんして父親と一緒に暮らすことはまったく考えていなかったようだ。その頃にはもう男がいたようだ。と美智子さんが話す。  父親の嫌がらせにとばっちりを受けた孫はたまらない。毎日、学校から静かになった家に帰っても、飲んだくれの父親がくだを巻く。孫は日に日に萎縮していく。こうなったのも全部父親のせいだと恨んだこともあったらしい。  孫が中学になる頃、父親は酒浸りの日々がたたり、四十一歳の若さで亡くなった。  母親には再婚相手との子供も生まれ、新しい家族の生活が始まっていた。今更迎えに行くことはできないから、とあっさり孫を捨てた。  天涯孤独となった孫は美智子さんに引き取られることになった。  孫は母親に二度も捨てられたと傷ついた。  この頃から孫は、人に対して、社会に対して、(しゃ)に構えるようになったという。 「あの頃の孫は、やんちゃというか、無邪気というか、バカなことをしてたよ。根は良い子だと、あたしゃ知っているからね。いつかきっと立ち直ってくれると信じていたから、ずっと見守ることに決めたのさ」  美智子さんの言葉は強かったが、孫を見守る温かさが伝わってきた。  美智子さんの気持ちとは裏腹に、孫は毎日のようにケンカに明け暮れた。父親の一件からなかなか立ち直れない。父親を恨むことだけが孫の生きる原動力となっていた。  再三、学校からの呼び出しを受けても、孫には小言を言わず、美智子さんは黙って孫に寄り添った
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

92人が本棚に入れています
本棚に追加