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三 「君がそこまで言うのなら」7
中学二年になったある日、けがをした友達を連れて孫が帰ってきた。
「どうしたんだい。そのけがは」美智子さんが玄関に駆け寄る。
「ばあちゃん、それよりこいつの手当てをしてやってくれよ」
友のことを気遣う孫もけがをしている。お前も、と美智子さんが心配すると、たいした傷じゃない。俺は全然平気だ。と孫が嘯きながら顔を背ける。少しでも強いと思われたくて虚勢を張る。弱みは負けだと思っているんだろう。すべてが勝ち負けの判断しかない年頃だ。
美智子さんが手当のあと事情を聞いた。
けんか相手のグループは日頃から友人に暴力をふるっていた。複数人で囲み、ちょっかいを出す。ちょっかいを出した相手に向かって行こうとすると、後ろのやつが蹴りやパンチを入れる。正面からは向き合わない。相手は一人増え、二人増え、取り囲んで友人を攻めだした。孫が通りがかりに友を目にして、すぐさま飛び込んで止めようとしたが、相手は孫にも牙をむく。逃げるが勝ちと判断はしても、友人は逃げられるほどの元気がない。数人は倒したけれど、多勢に無勢。勝ち目などない。孫も袋叩きにあい、ぼろぼろにされた。
一時間後、相手の親から苦情の電話があった。
最初、美智子さんは丁寧な口調で対応していたが、相手の言い分が子供贔屓の理屈で好き勝手をなことを言う。業を煮やした美智子さんがきれた。
「さっきから黙って聞いてりゃ、好き放題言いやがって、こっちが聞いた話とはずいぶん違うじゃないか。えっ、男が数にものをいわせて勝ちゃあいいっていう了見はちょいと卑怯ってもんだろ。あんたとこの子はいつも複数人でけんかを売るらしいじゃないか。それじゃあ集団暴行じゃないのかい。男なら一対一で勝負だろ。違うかい。こっちだってけがをさせられて帰ってきてんだ。出るとこに出て、きっちり白黒つけたって良いんだ。あたしゃとことん追い詰めてやるからね。本気でやり合う気なら覚悟しな。べらぼうめ」
鬼気迫る啖呵を切った美智子さんが電話をたたき切った。
孫と友人は呆気にとられて、ぽかんと口を開けたまま美智子さんを見つめた。
「すっげぇ」二人が一言漏らした。
「若い男が、女性をそんなに見つめるもんじゃないよ。どうせ、腹、減ってんだろ。今、ナポリタンとか他にも作ってやるから、飯でも食いな」
美智子さんは照れながら台所へ向かった。
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