三 「君がそこまで言うのなら」9 

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三 「君がそこまで言うのなら」9 

 孫は進学こそしたが、中学の学力低下と内申書が響き、不良が集まる高校に入学した。また、けんかに明け暮れる日々が続いた。しかし、一人ではなかった。いろいろ家庭に事情を持った者が集まっていたからグループで連れることが多かった。唯一の居場所ができた。不良たちと過ごす時間が唯一満たされる実感を味わえた。心の弱さを逆に(いき)がって生きた。  仲間がいたからこそ孫は生きていられたと思うね。しかしねぇ、孫を見ていると試練の多い子だとつくづく思うよ。あたしもあの出来事のときはさすがに心配が渦巻いたという。孫と一番仲が良かった友達がバイクの事故で亡くなったのだ。通夜の日はあまりにも帰りが遅いので気が気ではなかったと美智子さんは神妙(しんみょう)な顔つきをした。  実際、食うものもろくに食わず、目を腫らして、憔悴(しょうすい)していく。他の友達も家には来てくれない。孫は人間関係だけでなく社会的にも孤立していく。  ある日、友達から呼び出しを受けて、久しぶりに家を出て行った。夜遅く家に帰ってきたときは顔を腫らしてたので、またどこかでけんかでもしてきたのだろう。なんにせよ生きて帰ってきたなら御の字だと思ったそうだ。  翌朝、事情を聞いてみると、友人をかわいがっていた先輩におもいっきり殴られたという。まだ痛えや。と孫が頬を触る。この子は生きている。痛みを感じられるのならまだ生きている証だと少し安堵した。  しばらくおとなしくしているので安心していた矢先に警察から呼び出しを受けた。美智子さんは財布だけを手にして飛び出した。警察についたとき、警官から大丈夫ですかと心配された。とても顔色が悪かったらしい。孫に会うまでに事情を聞いた。孫の仲間がチンピラに絡まれて手痛い目にあわされた。孫は友達を助けに行った。当然、大げんかになる。相手もそれなりの傷を負っているらしい。けんかの原因は四人がコンビニの前でたむろしていると、景色が悪いと因縁ををつけてきた。うっせぇ、と言い返して無視しているといきなり殴りかかってきたらしい。相手は散々殴る蹴るなどして、痛めつけたあと、落とし前をつけろと金を要求したらしい。金なんかねぇわ。仲間は寝転んだまま声をあげた。減らず口叩きやがって。思い知らせてる。仲間が車に乗せられそうになっているとき、孫が遅れて現れた。自転車を乗り捨て、チンピラに向かって行った。コンビニの店員が警察に通報したのでパトカーがすぐに来た。チンピラの五人と孫たち五人は警察に連れて行かれた。相手が絡んで喝上(かつあ)げをしたことが判明し、五人は身元引受人さえ迎えに来ればすぐに返してもらえるはずだったが、誰一人として保護者は現れなかった。孫はしかたなく警察官に祖母の連絡先を伝えた。美智子さんが五人と対面したとき、一人ずつびんたをくらわせた。
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