三 「君がそこまで言うのなら」10

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三 「君がそこまで言うのなら」10

 美智子さんが頬をさする五人に向かって叱った。 「ちんけな悪さをして粋がるくらいなら、人様に喜ばれることをしな。その方がよっぽど度胸があって、強いってもんだ。いつまでも藻掻(もが)き続けたままでいようとすんじゃないよ。世間に不満があるなら、はやく大人になれ。ちゃんと地に根を張って、どっしりとかまえる男になりな。男として生まれて来た限りは、お天道様に胸を張って生きられる生き方をしな。それが男気(おとこぎ)ってもんだろ」  美智子さんの剣幕(けんまく)に、警察も一瞬声を出せなかった。 「まあまあ、おばあちゃん、それくらいにしてやってください。この子たちも反省していますし、悪いのは相手の方なんですから」  年配の警察官が仲裁(ちゅうさい)に入った。  美智子さんは五人とも責任を持って引き取るので一緒に帰らせて欲しいと何度も謝りながら警察官に嘆願(たんがん)した。このまま留置するわけにもいかないので、今回はどうにか聞き入れてくれて、解放されることになった。  美智子さんはぞろぞろついてくる五人を背にして家まで歩き続けた。  家に帰ると、美智子さんは料理を始めた。  五人を勇気づけたのは、美智子さんが作ったナポリタンの味だ。  うめぇと涙ぐむやつもいた。  美智子さんはたばこを吸いながら冷や酒を飲んだ。  その日から仲間たちは美智子さんの家によく来るようになった。 自身の存在価値が軽く思えた辛い時期だが、どこにも行くあてがなかった彼らには虚勢(きょせい)の荷を下ろせる居場所ができたのだろう。
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