一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」8

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一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」8

 柳原美樹の情報では、普通の男なら、なんの魅力もない彼女を選ぶとは思えないから、課長も物好きだな。と噂が広まって、課長の評判も落ちたな。と残念そうに言う人もいたらしい。  由井世志乃の情報では、彼女と課長が仲良く話をしている写メがあると言った。  隣の女が、まだ持ってたのと茶化(ちゃか)す。  私が写メを転送してほしいと頼めばすんなり了承してくれた。写メを転送するとき、職場なのに、二人で堂々とイチャイチャして話をしてるのよ。と、ここでもいちいち非難の口は止まらない。  下坂めぐみの情報では、他の二人とは意見が違った。 「私は違うと思う。あの二人はできてないわ」 「どうしてそう思うのですか。教えてください。お願いします」  私が興味深げに下出(したで)に出て訊ねたので、めぐみさんは満足げな表情で二人を分析した。 「二人が男と女の関係になっていたとするなら、微妙に違和感を感じるの。二人の間には信頼関係が存在するのかもしれないけど、でも、男と女の関係になった恋人同士の距離感じゃない。漂う雰囲気も違うのよね。行動もそう。同じ職場にいながら恋人関係になれば、必ず二人で休暇を取る約束や衝動が生まれる。でも、二人が一緒に休むことはなかった。男と女がつきあえば、きっとどこかへ行きたくなるし、ゆっくり過ごせる時間もほしくなる。ましてや男は既婚者だから、休みの日には会えない。となれば、平日に二人で休んでどこかへ行きたくなる。二人の時間を作るようになるっていうわけ」  と恋人同士の習性について解説した。  私は思わず、なるほど勉強になりますと頭を下げそうになった。  次に携帯電話について分析した。 「女でも男でも恋人ができたなら、いつメールが届いてもすぐに返事ができるように、肌身離さず携帯電話を持ち歩くようになる。でも、彼女は出勤すると机の引き出しの中に携帯電話を置いた。それも電源を切って。お昼休みの時間帯になってもメールを確かめるようなことはしなかった。それから以前、二人がカフェテラスでお茶をしている写メが出回ったことがあったけど、事前に課長からイベントの準備が終わったので、お茶でも飲んで、少し休憩してから会社に戻ります。とちゃんと連絡を受けた。不倫をしている人がわざわざ会社にそんな電話を入れない。職場に黙って二人で時間を楽しむでしょ」  めぐみさんは二人を弁護するような言い方をした。  極めつけは、「彼女は女としての艶がなかった。男に抱かれている艶がないの」と断言した。 「先輩、いやらしい」とすかさず二人が下世話な相づちを打つ。  めぐみさんがさらに続けて、携帯電話に関して言えば、今の方が怪しいという。 「先日、彼女が階段のところで携帯電話を眺めていたのを見たし、今の方が艶っぽい気がする」と断言した。 「先輩の分析力はすごいですね」と二人が絶賛(ぜっさん)する。  この二人、ほんとに内容まで理解できているのかしらと疑ってしまう。
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