三 「君がそこまで言うのなら」12

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三 「君がそこまで言うのなら」12

 あの子たちの学生時代にあったのは、飛行機雲の道標だと言う。 「初めははっきり見えていた線が、時間とともにぼやけて消滅する。成長しているかのように見えて、実は儚く消えていく。幼き頃には、将来なりたいものや夢があったろうに、成長していく過程で失われていく。人間、夢を持てるのは幸せだが、夢を持ち続けることは大変だからね。努力や苦労は当たり前だ。どれだけの時間を費やすかは、人それぞれの選択だ。道半ばで方向を変えることもあるだろうし、とにかく生きていくために今できる仕事をしなければならないこともあるだろうし、かわいそうだが夢や目標に見切りをつける子もいるだろう。人間、生きていればいろいろあるだろうけど、学生を卒業すればちゃんと自分で稼いで生きていく道を歩かないと。まれに学生の頃からアルバイトをしている感心な子もいるからね。みんな見習うべきだよ。二十歳を過ぎて、自分に合う仕事がないとか四の五の文句を言いながら、いつまでも親に食わせてもらっているなんて、情けないと思わないのかね。ちょっと考えてみな。と言ってやりたいよ。そうは思わないかい。だってそうだろ。自分に都合の良い条件ばかりつけて踏みとどまっている時間があるのなら、まずは自立しなきゃだめだろ。大人になるっていうのはそういうことじゃないのかい。ちょっと話がそれちまったけど、孫は自分の人生を自分の意思で地を踏みしめて歩むようになった。あたしゃ、いい男になったと思ってるけどね。あんたには身内贔屓に聞こえるかい」  美智子さんはそこで話を区切って私に目を向けた。  私は顔を横に振った。言葉がなにも出てこなかった。私がどんな言葉を使って伝えようとしても軽すぎる言葉になってしまう気がしたからだ。  美智子さんの持論はすごく真っ当に聞こえた。
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