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三 「君がそこまで言うのなら」13
学生時代の話を終えたあと、
「ちょっと休憩しようかね。年を取ると長話も疲れるからねぇ」
美智子さんは腰を上げ、肩を叩きながら台所へ移動した。緑茶と和菓子を炬燵に置いて、早速、たばこに火をつけた。
「しかしなんだねぇ、最近の日本人はどうしちまったのかねぇ」
私は美智子さんの問いかけが理解できず、はぁ、と呑気な返事をしてしまった。
「あんた、ニュースを観たり、新聞を読んだりしてないのかい。最近は親分肌の人がいなくなったっていう今どきの偉いさんたちの話だよ。政治家や会社の役員どもは、公的なお金なのか私的なお金なのか区別もつかなくなって、自分への実入りを優先して一般の生活は後回しにして、私利私欲に走る人間が増えすぎた。誰にも見つからなければ、なにをやっても許されるなんていう姑息な了見を持った、上の者ばかりが目立つ。浮かれた虚構の世界を作り上げて、ばれると言い訳ばかり並べてさ。昔と比べて潔さをなくしちまったよ。まったくもってふやけた社会になったね。なげかわしいことだ。上に立つ者ほど自らを律する気構えが必要だろ。道徳を重んじた日本人の気品はどこへ行ったのかね。こんな世の中じゃあ、健全な心で慎ましく生きていくことの方が異質で不思議なことなのかもしれないと、こっちが勘違いしてしまうよ。あんた、そうは思わないかい」
私は返答に困った。これからずっと時事討論でも始めるのかと思ってびびった。美智子さんを私なんかと比べるのはおこがましいけど、経験はもちろんのこと、知識や見識が乏しすぎる私には、どう答えればいいのかわからず萎縮してしまう。
「若いあんたに、こんな老人の愚痴を聞かせてもしょうがないね。変なことを訊いちまったよ。今の話は聞き流しておくれ」
私はほっとしながら、いえいえそんな。と小さい声をどうにか発して顔を下に向けた。
「あんたは、孫がどうしてこんなことになったのかを知りたいと言ってたね。あたしにもどうしてこうなってしまったのかはわからないよ。あんたが知りたい真意なんて、どこにも存在しないかもしれないよ。世間にはいろんな風が吹いているからね。穏やかな風だと思ってても、突風は吹いてくる。向かい風のときもあれば追い風になるときもある。前後ばかりを気にしていると、突然、横殴りの風が吹いてくるときもある。強い風がふきゃあ、横に振られて流されることもあるってもんさ。そんなことに誰が悪いと言って、犯人なんて見つけられないだろうし、決めつけることもできないだろ。あんたの努力は徒労に終わるかもしれないだろ」
覚悟の上ですと伝えた。ただ、本当のことを知りたいだけです。私は決意表明みたいに話した。
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