三 「君がそこまで言うのなら」14

1/1
前へ
/185ページ
次へ

三 「君がそこまで言うのなら」14

 本当のところは狐につままれたような話だという。  孫は仕事が忙しいからしょっちゅうではないにしろ、季節ごとに美智子さんの様子を見に顔を出した。孫の嫁は一度来たきり顔を出していないらしい。  美智子さんは大阪生まれの大阪育ち、中学を卒業してから上京して結婚するまで浅草で働いた。結婚後は神奈川県の百合ヶ丘に住んでいる。なにわ、江戸っ子、といった下町的な人間性だから、お嬢様育ちの嫁には性が合わなかったんだろうと打ち明けた。  美智子さんは最愛の孫をほめた。仕事ではわりと有望株だと聞いたことがるがね。思いやりのある子だ。しかし、孫自身は 、他人は自分が思っているほど良いようには思っていないと傷を抱えていたようだという。なぜそう感じたのか。いつだったかね、孫が女性に関してうれしそうな顔をして告白したことがるよ。 「ばあちゃん、俺を認めてくれる女性がいるんだ。よくほめてくれる。良い評価をしてくれる人がそばにいた」  孫は女性という存在に認められたかったと思うね。母親に捨てられた傷があるからさ。  美智子さんがしんみりと言った。  結婚前、二人がこの家にきた。美智子さんは手料理でもてなした。  杉田さんは三十三歳で結婚。結婚生活十年で離婚。その間、娘が一人。今年は十四歳になるという。美智子さんの部屋には小学校の入学式の日に三人で撮った写真が飾られていた。 「もう大きくなっただろうね。いつ見ても変わらない写真だからさ。ひ孫が歳を拾わない分、こっちは年々歳を拾っていく。ひ孫のあどけなさが増していく気がするよ」  美智子さんの言葉には、何年も会えていないことを物語っている。年を拾わない写真だけが家族って、なんだろう。と疑問が浮かんでしまう。  当時のスキャンダルで、夫婦仲がうまくいかなくなったのか、それとも元々二人の間に溝があったのか、本当のところは当人に聞かなければわからないことだと言った。
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

93人が本棚に入れています
本棚に追加