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三 「君がそこまで言うのなら」15
私は美智子さんの話を聞き終えて、玄関で靴を履いているとき、もう一度美智子さんに念を押された。
「何度も言うようだけど、人の人生に足を踏み入れるというのは、その人の人生を背負い込むことにもなるんだ。その覚悟があんたにはあるのかい」
「わかっています」
私はきっぱりと言い切った。
「うちの子を泣かすようなことだけはよしてくれよ」
最後にお願いをされたような口調で言われた。私は深々と頭を下げて家を出た。
帰り道、私は、ふと、二人の境遇が似ているような気がした。二人は互いに、自分を守ってくれる魂の共鳴者を探していたのではないか。と、そんなことを考えていた。
果たして、二人の出会いは、幸せだといえるのだろうか。
今の現実を、二人の立場を考えれば、負になることが多い。本当に人生はプラスとマイナスでゼロになるのだろうか。とても相殺されているとは思えない。
私の心は重くなっていた。
二人の間に「恋」という思いが本当にあったのなら、タイミングの悪い時期に出会ったのではないか。もし、今、二人が初めて出会えたのなら、どうなっていたのだろうか。タイミング良く、すんなりハッピーエンドを手にできただろうか。やはり、杉田さんにも話を聞かなければ決断にはいたらない。
電車内の車窓には暗い不安が渦巻いていた。
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