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三 「君がそこまで言うのなら」16
さて、いよいよ最後の人、杉田さんと会える約束を取り付けた。
しかしながら、どうして三人とも同じように日曜日の午後からなんだろう。私の方からお願いをしているから身勝手な要望はできないけど、次の日から仕事が始まることを考えれば、できれば土曜日にしてほしい。日曜日はゆっくり身体を休ませて体力を温存させておきたいのに。
でも、しかたがないよね、「自分のお願い事をきいてもらっているんだから相手に合わせるのが礼儀ってもんだろ」と美智子さんの声が聞こえてきそうだ。そうですよね、叱咤激励をありがとうございます。と感謝をしなければ、罰があたりますよね。
杉田さんが住んでいる町の最寄り駅で降りて、駅周辺で昼食をすませた。徒歩、十分で杉田さんの貸家に到着する。コピーした地図をピンクのマーカーを引いたとおりに歩を進めた。
午後一時過ぎ、杉田さんの部屋の前に立った。扉をノックして杉田さんに声をかける。杉田さんがラフな私服姿で現れた。
「ほんとに私の部屋でも良いのですか、どこか喫茶店にでも行きましょうか」と玄関先で、気遣ってくれたが、「杉田さんさえよろしければこちらの方が」と返答した。
内容によっては、外では話しにくいこともある。色恋事は特にそうだ。人目を憚るような内容ならばなおさらのことだ。できれば包み隠さず、すべてをさらけ出して話してほしい。私なりに気遣った判断であり、自分の知りたい事への欲求でもあると考えた選択だ。
初めて対面した杉田さんは穏やかさが惨みでていた。緊張を払拭する表情に吸い込まれそうになる。
「こんな男を目の前にすると、女はみんな惚れちまうよ」とか、美智子さんなら言うだろうか、などとバカな想像をめぐらせた。裸の炬燵を挟んで腰を下ろした。
しかし、どこも炬燵って、今、炬燵のブームでも来てるの。それともたまたま好みが一緒っていうこと。変な詮索はやめにして、今日、時間を取っていただいたことにお礼を言った。
「祖母にも会いに行ったそうですね。あなたっていう人は」
杉田さんは苦笑をした表情で言葉を止めた。
なんでしょう、とそのあとの言葉を聞きたくなったが、
「杉田さんの幼い頃から今に至るまで、お話を聞かせていただきました。相手に対する優しい思いが伝わってきました」
「それは大切な存在ですから」
杉田さんは柔らかい表情で、恥ずかしいそぶりも見せず、正直に告白してくれた。
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