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三 「君がそこまで言うのなら」17
杉田さんはしばらく美智子さんの話をしてくれた。
「初対面の人にはちょっと刺激が強い人かもしれない。江戸っ子的な気質もあり、関西人特有の人柄もそなえている人だからね。なにしろ人に対してのインパクトがすごいから。どんな人にでも物怖じしない。たばこは吸う。気っぷが良い。豪快。ハイカラな人。そんな評判が広まっていたらしいから。
「祖母は、私にとって、唯一の理解者であり、支えの存在であり、感謝の人です。なのに、今まで感謝の気持ちを素直に言えなかった。ちゃんと言葉に出してして伝えることができなかった。今は、素直になれなかったことに後悔しています。祖母にはいろいろ迷惑ばかりかけたのに、こうしてあなたと対面していることを考えれば、今でも祖母に迷惑をかけ続けている。祖母からは、恥ずかしいとか、情けないとか、いろいろ負の要素を考える前に、胸の内を正直に言葉で伝えることの大切さを知らされました。今回、他県への転勤で祖母と離ればなれになった事はとても申し訳なく思っています。今までのように同居していれば心配はないのですが、今はすぐに祖母の顔を見に行けなくなりましたので。祖母はもう八十八歳の高齢になりますので、身体のことがとても心配になります」
そこで杉田さんが立ち上がりながら私に訊いた。
「あっ、なにも用意しなくてすみません。ちょっと待っててください。今、コーヒーでも淹れます。あのコーヒーは大丈夫ですか」
「大丈夫です。お構いなく」
「あなたの話は長くなりそうですから」
杉田さんの口調も表情も怒っていない。少し笑い気味に話している。お手柔らかにと付け加えられている気もしないでもない。
しかし、美智子さんに会ったことはともかくとして、彼女と会ったこと、彼女の郷里に行ったことも、おそらく、きっちり、はっきり、ちゃっきり、ちゃんとばれているはず。杉田さんに問い詰められると、「はい、すみません」と私は恐縮するしかない。
三人の連携が取れているスクラム。私に対する包囲網。
なんの連携。なんの包囲網。
いやいや、私は攻められてはいない。対戦しているわけではない。
非難囂々に責められてもいない。こうして部屋の中まで招き入れられている。言葉や態度にされていないことを負の要因として勘ぐるのはよそう。悪い雑念は取り払え。目の前の杉田さんだけを見て、杉田さんの話に全身全霊を注ぎ込んで耳を傾ける。全集中。
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