三 「君がそこまで言うのなら」18

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三 「君がそこまで言うのなら」18

「難しい顔をして、なにを考えているのですか、私は怒っていませんよ。ただ、あなたの行動力に感心しているというか、呆れているというか、他意はありません。それでなにからお話をすればいいのでしょうか」  両親の離婚、祖母との生活、杉田さんにとって、美智子さんがかけがえのない存在であることは理解できているつもりだと伝え、美智子さんの話だけでなく、杉田さんの気持ちや思いも聞かせていただければ幸いだと。 「なんのために」と素朴な疑問を投げられる。 「杉田さんがどういう思いで現在に至ったのかを知りたいと思ったからです」 「今更、私の気持ちを知ったところで、なにも変わることはありませんよ」 「それでも、杉田さんのことを、今でも気にかけ、心配し、案じている人への理解と納得のために、安心していただくために、事実と真実を知りたいのです。なので、杉田さんの気持ちにより近づきたいと判断したからです。でも今は、使命や命令だけではありません。彼女と会って、とても知的で静謐(せいひつ)な人だと感じました。七つも年下の私が言うのはおこがましいことかもしれませんが、彼女の力になれる存在になりたいとも思っています」 「探偵さながらですね」と杉田さんは笑いながら言った。続けて、「なにからお話をすればいいのか」と杉田さんがコーヒーを口にする。 「ぐれた時期もあったとうかがいましたが、そのときのことを」と私はこちらから話題をふった。  し~んとした無口な会議の場では、誰かがなにかひとつの意見を言えば、話が続くことが多々ある。  最初のきっかけさえあれば、あとは続いて流れるものだ。
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