三 「君がそこまで言うのなら」19

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三 「君がそこまで言うのなら」19

 杉田さんはこくりとうなずいて当時を回想した。 「私は母親に三度も捨てられたからね。多感な時期に私への影響は大きかった。三度目の正直のつもりが、二度あることは三度あるになって、真逆の結果に向き合わなければならなかった。とてもショックを受けました。感情が乱され、苦悩の時期が長かったこともあります。当時は自分のことしか考えられなくなっていました。祖母の気持ちなどなにひとつ考えることなく、不毛な時間を過ごしていたと言えるでしょう。祖母に見放されてもしょうがないことを続けていましたが、祖母は私を責めるようなことは言いませんでした。発破(はっぱ)をかけるようなことは言われましたけど、非難されるような言葉は一度たりとも言われたことがありません。自分の感情をうまくコントロールできない時期は、これほどありがたいことはなかった。自分を見守ってくれる人がそばにいると感じられたことは、魂を保つ上で、安心と勇気を与えてくれるものです。私にとって祖母がいなければ、今まで真っ当な道で生きていられたかどうか、わかりません。いえ、生命そのものについても疑問が浮かびます。祖母はとても大きくて大切な存在なのです」  杉田さんはコーヒーを一口飲んで話の区切りにした。  唯一の存在は祖母の美智子さん。それは理解できる。でも、友達もいたはずだ。 「友人もいたと聞きましたが」 「あいつらか、あいつらも根はいいやつばかりですが、私と同じように周りや世間から白眼視(はくがんし」)されていましたからね、()ねる時期があってもいいでしょう。でも仲間意識は強かった。いいやつばかりです。祖母の存在はあいつらにとっても大きかったと思います。実際、祖母の助言を受けて、その道に進んで、今ではりっぱに働いて、家族もいる。祖母のおかげだと感謝しているやつもいますよ」  杉田さんは誇らしげに美智子さんの存在を話した。
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