三 「君がそこまで言うのなら」20

1/1
前へ
/185ページ
次へ

三 「君がそこまで言うのなら」20

三 「君がそこまで言うのなら」20  私は事故死した友人のことを訊ねた。  杉田さんは暗い表情を浮かべた。  杉田さんは終始(しゅうし)下を向いて友人のことを語った。  あいつはいいやつでした。警戒心の強いやつで、最初はとっつきにくい性格だけど、一度、仲間として受け入れたら、とことん仲間を守るやつで。あいつだけは最後の味方だと言えるほど信用できる人間です。グループの中で一番仲良しなのが、仲間から『ダンベル』と呼ばれていたやつです。ダンベルはめっぽう力の強い男で、誰とけんかをしても、はじき飛ばすほどの馬力を持っていた。相手がどんな道具を持ってかかってきても屈強に衝撃を跳ね返すほど強かった。あいつこそが、まぶだち、だと思っていた。『まぶだぜ』が、気の合う俺たちの合い言葉でした。ずっと二人で一緒につるんで生きていけると思った。しかし、夏休み中にダンベルが無免許でバイクを飛ばし、交通事故で若い命を落とした。大事な人ほど、突然自分の前から消えてしまう。私は、自分は呪われた運命にあるのかと絶望を胸にしたこともありました。通夜のあと、私は海に向かった。『おりゃあ、お前とは一生離れないぜ。まぶよ。まぶ』ダンベルの言葉を思い出した。『俺もまぶだぜ、ダンベル。だからお前のとこに行くよ』とつぶやいて海に飛びこもうとしたとき、仲間が追ってきて、『お前の仲間は、ダンベルだけか』、『悲しいのはお前だけか』、『弱さに逃げんなよ』、『仲間をバカにすんな』、あいつらは私に怒りの言葉をぶつけながら私を殴り飛ばした。あいつらはみんな泣いてました。私も地べたに這いつくばって泣いた。痛みでもって、友のありがたみが身にしみました。  数日後、仲間が一人のある先輩を連れて私に会いに来た。  先輩もまた、家族に見放され、似たような境遇で育ち、暴走族に入ってた時期もあった。けど、今は商売で成功をおさめたりっぱな先輩です。  先輩はダンベルをとてもかわいがっていた。私は先輩のあいさつ代わりにいきなり一発殴られました。顔面に岩石がぶち当たったような痛みが走りました。仲間があわてて止めに入った。先輩は次々と近寄る仲間を殴り倒した。全員がうめきながら地面でのたうつ。誰も立ち上がれなかった。
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

93人が本棚に入れています
本棚に追加