三 「君がそこまで言うのなら」21

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三 「君がそこまで言うのなら」21

 先輩がどすのきいた声で私たちに説教した。 「いいか、てめえら、ダンベルはな、死にたくて死んだんじゃねぇんだ。それぐらいのことわかってんだろ。なんだそのしみったれた根性は。ダンベルに恥ずかしいと思え。ダンベルはな、俺の弟みたいなやつなんだ。この俺に、安っぽい青春ドラマさせんじゃねぇよ。なにが『友達が生きる気力をなくして』だ。甘っちょろいだれごとを並べてんじゃねぇぞ。くそがきどもが。てめぇら、自分で命を捨てるために生まれてきたわけじゃねぇだろ。自分がどんな人生を歩もうが、他人のせいにするんじゃねぇ。全部、自分で選んで決めたことだろうが。だったら最後まで責任を持て生きろ。それがあいつへの供養だ。わかったな。今度死ねてぇなんてぬかしたら、てめぇら全員かたっぱしからぶっ殺すぞ。おい、こっち向け。てめぇら仲間だろ。仲間なら連帯責任だ。二度と俺にこんなことさせるなよ。じゃあな」  先輩はそれだけ言ってすぐに帰って行った。  五人が顔や腹を押さえながらごそごそ起き上がり、一言ずつもらした。 「誰だよ。先輩に相談しよう。なんて言ったやつ」 「連帯責任って、ただ殴りたかっただけじゃねぇの」 「表現が不器用な人だとは聞いてたけど、あいかわらず、乱暴な人だぜ」 「しかしよぉ、あの人の言葉を文字にすりゃあ、説得力あんのにな」 「みんな、わりぃ」 「お前のせいだ」とみんなが声をそろえて吠えた。  あの頃は、殴り合いでしか伝える手段が思いつかなかった。自分の置かれた境遇を、他人や世間のせいにしてもなんの解決にもならないことを、みんなわかってたんだ。他人と比べて、卑下(ひげ)して、()ねて、(ねた)んで、曲がっちゃいけないと、どこかで気づかなければいけないと、一条の光がさしたときです。
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