一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」9

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一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」9

 杉田さんが話の中で登場したので、これ幸いに杉田さんについてどんな人なのかを訊いた。  軽い二人は「良い人」と漠然(ばくぜん)とした表現でしか伝えてくれなかった。  やはり意見を聞くなら分析者めぐみさんだ。  私はめぐみさんに目を向けて聞く姿勢を整えた。 「一言で言えば、杉田さんは(へだ)てのない人です」と好印象的に言った。  誰に対しても、必ず、「さん」づけで人に話しかける。「○○ちゃん」とかなれなれしい呼び方はしなかったらしい。 「セクハラを例にして言えば、他の人では不快に感じる行為が、杉田さんなら許せるような人。がんばったね。と肩に手を置かれたとしても不快になるどころか、こちらがキュンとしてうれしくなるような人ですよ」と言ったあと、「でもそんなことはしない人ですけど」と付け加えた。  それから仕事の判断力では間違ったことを言わなかったという。  杉田さんが物事を判断するときは、必ず、原点、基本、ルールに戻って判断をする人らしい。いろいろ業務を進めていると、幹から枝葉を伸ばして、例外に理由をつけて物事を推し進めようとする人もいる。あまり例外的な枝を伸ばしすぎると、結果的に本来の意味からかけ離れたことをする人もいる。そんなことにはならないように、「そもそも」と言って物事の推し進め方を考える人だという。  また、部下が間違いをしたときは、叱るのではなく、反省は問題事が解決したあとでいいからと。まず、どうすればトラブルを回避(かいひ)できるかを優先的に考える人でした。誰にでも優しい人でした。だからこそみんなに好かれて頼られる存在だといった。杉田ロスみたいに、杉田さんが異動になって、寂しがったり、悲しんだり、落ち込んだりした人は多かったらしい。  噂が出回った当時は、この件に関してはなにか裏があるんじゃないかと(かん)ぐったこともありましたけど。でも、杉田さんがなにひとつ言い訳もせずに異動をすんなり受け入れた。という噂が流れて、杉田さんにも反論できない事情があったのかもしれないとも考えられた。  ひとつ気になることを付け足して言わせてもらえれば、課長の送別会をした次の日、彼女が目を腫らしているのを見たときは、あれっと思ったけど。でも彼女は参加していなかったような。 「結局、男と女のことだから、真意は当事者にしかわからないことがありますからね」  めぐみさんが杉田さんの分析評価を締めくくった。
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