三 「君がそこまで言うのなら」23

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三 「君がそこまで言うのなら」23

 さて、ここから先は就職してからの話になる。  杉田さんと彼女とのことが語られるんだ。  私はやっと頂上が見えるところまで登山した気分になった。  当初の噂だけで判断をすれば、悲しいかな彼女の悲恋に至る経過が判明するだろう。  しかしながら、彼女の思い、孫を育てた美智子さんの存在、連絡を取り合っているであろう二人の関係などを総合的に考えれば、また違う景色が見えてくるはずだと私の推測が成り立つ。この先の景色はどんなに広がっているのだろうか。表面的にはわからないことを明らかにしてほしい。彼女にも一条の光がさしている景色が見たい。私は自分のことのようにどきどきした。  杉田さんの姿勢が、いくぶん背筋が伸びた気がした。 「ひとつ確認したいことがあります」  私はなんでもどうぞという気持ちで姿勢を正した。 「あなたは、今の使命を離れても、この先どんなことがあっても、彼女の味方であると、最後の一人になるまで支えると約束ができますか」  あれ、どこかで聞いたことがある質問だと思った。すぐには思い出せなかったが、もちろんそうありたいと思っています。私の決意が固いことを伝えた。  杉田さんは私の心構えを聞いて、彼女の話を始めた。  彼女のことは同じ職場になるまでどんな人なのかまったく知らなかったらしい。  初対面は職場内の引き継で訪れたとき、あいさつをされて、初めて顔を見たという。  前任からの引き継ぎでは、部下の仕事ぶりや性格なども聞かされた。彼女は要注意人物的な存在として伝達を受けたという記憶があるらしい。職場の変わり種として位置づけられていたのだ。  しかし、杉田さんは美智子さんのもとで育った。仲間との関係もある。他人の評価で先入観を抱いて人を判断はしない。自分の目で見て、実際に話をして、相手の思いや考え方を聞くまでは、人の心はわからないものだと思っているはずだ。なぜなら自分や仲間たちは世間から真っ先に切り捨てられる人間だと感じながら生きてきた経験があるからだ。  彼女にとっては幸運の出会いだと思う。  彼女は杉田さんと出会うことができて、少しずつ良い方向に人生が変わったのだと信じたい。
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