三 「君がそこまで言うのなら」24

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三 「君がそこまで言うのなら」24

 杉田さんが彼女の第一印象を語った。  不思議だけれど、とても懐かしい人に出会ったような気がしました。以前から知っている人に出会ったような不思議な印象を受けました。職場に入っていき、あいさつをされただけなのに、なぜそんな感情を抱いたのか、当時はわかりませんでした。  この告白に、私も懐かしい感覚がよみがえった。私も、この印象を、この言葉を、この思いを、前に聞いたことがある。そうだ。彼女もまったく同じ事を言った。これは互いに一目惚れをしたということにならないのだろうか。  杉田さんは私の思考など気にせず話を続けた。  日が経つにつれ、見えてくることや確信できることがあります。彼女はとてもアンテナを張った人でしたという。「アンテナ」という意外な表現に気をひかれた。  私の方を見ているような見ていないようなそぶりで、私の言葉に耳を傾けている。彼女はとっつきにくい人でもなければ、人間嫌いでもない。人見知りをする人、繊細な人、ではないかと思ったのです。それに、人をよく観察している人だとも思いました。  杉田さんが、周りの人についてどう思うか、彼女に聞いたことがあるそうだ。  杉田さんは、周りの人との人間関係についてうまくいっているかどうかを聞いたつもりだが、彼女は性格分析のような感想を述べたらしい。  あの人は緻密な計算で、詳細な資料を積み重ね、企画力に優れているが、根回しが苦手なタイプ。  あの人はおおらかで、豪快で、ムードメーカーとして適しているが、詳細な詰めが甘い。  あの人は掘り起こせば良い考えを持っているが、自己主張が苦手なのか、創造豊かな能力が活かされていない。  あの人は自分より上の立場にいる人には気を遣っているが、自分より下のポストにいる人には思いやりに欠けている。  あの人は与えられた仕事は完璧にこなしているのに自分からは手をだそうとしない。能力がもったいない。  彼女の観察力が見事に当たっているというか、私の判断とまったく同意見でした。  この話は彼女と話ができるようになってからのことですけど、彼女を身近に感じた瞬間です。
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