三 「君がそこまで言うのなら」29 

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三 「君がそこまで言うのなら」29 

 次は会社のノート・パソコンにメールが送られ、写真が添付されていました。クリックして写真を確かめてみると、あるイベントの準備が終わり、休憩のつもりでオープンカフェのお店でお茶を飲んでいたときの写真でした。昼食もほどほどにして準備作業を続けた。喉が渇いていたのはもちろんですが、小腹が空いていたこともあって、サンドイッチも一緒に食べました。職場の話が大半ですが世間話をしてくつろいでいたのも事実です。録音はされていなかったので内容を証明できるものはありません。  もう一枚は、外で打ち合わせをしたあと、思いの(ほか)時間が押したので、お昼を過ぎていました。それで近くのファミレスに入って食事をしたときのものです。路上を歩いている姿はそのときの帰り道に違いありません。  どれもこれも昼間ですが、二人で写っていることは確かです。しかし、当事者の言い分がなくても、悪い噂になるような内容をイメージするものではないと判断できます。  二人で腕を組んで歩いている。路上キス。ホテルに入る瞬間。決定的なことはその後の下世話な想像でしかない。  相手が彼女でなければ、いや女性でなく男性ならば、単なる昼食の一場面だと、噂話は一掃され、話題にすらならなかったでしょう。なにも悪いことではない。  なぜこの程度の写真が噂の出所になったのか疑問を抱いきました。どうして私たちなんだ。犯人の意図がまったく理解できない。会社に暗躍(あんやく)する不条理な仕業としか思えなかった。と杉田さんは思いを語る。  私はここまでの話を聞いて、悪いことをあえてあげるならば、時期なのかもしれないと思った。  杉田さんには昇進の話が持ち上がっていた。本来ならば喜ばしい話だが、不本意ながらもトラブルに巻き込まれた二人は不運な出来事としか思えないだろう。いえ、二人の心の傷を考えれば、不運で片付けるのはあまりにも理不尽なことだ。  また、杉田さんを押した人にっとては、タイミングの悪いスキャンダルは排除したいところだ。当事者のみならず、杉田さんの推薦者にも負の影響を及ぼす重大な出来事となるだろう。事実や真意がどうであれ、大事な時期になにをしてくれたんだと、非難は必至。この世に神様はいないのかと叫びたくなる。
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