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三 「君がそこまで言うのなら」30
私の考え事をよそに、杉田さんは説明を続けた。
数日で、彼女も噂を知ることになる。驚きから周りの白い目に変わる原因が彼女の胸を突き刺した。杉田さんが彼女の異変に気づいた。
彼女の身体が微かに震えていました。顔色は青白くなり、目が充血している。自分一人では立っていられないようでふらついている。声を奪われた感じで、あいさつの言葉さえ出せない状態であることが伝わってくる。
あのとき、彼女の変化に気づくだけじゃなく、しっかり話をすればよかった。彼女の精神的なフォローを怠ったばかりに、彼女に申し訳ないことをさせてしまった。
朝礼のとき、いつもの伝達事項を一通りすませ、その他に誰か、なければ本日もよろしくお願いします。で終わるはずでした。
しかし、あの日は彼女が手を挙げて、私と職場の同僚に対して噂で迷惑をかけたことを謝罪した。ぴんと空気が張り詰めた感じで、異様な雰囲気が職場内に流れた。彼女がまだなにかしようとしているので、私はすぐさま彼女を制止しました。
彼女が私を守るためにした行為だとわかっていましたが、制止の声が強かったためか、私が彼女に近づこうとすると、彼女はびくっと身体を強ばらせた。怯えているようにも見えました。
そのあとも彼女は私に近づこうとはしませんでした。
しかし、彼女の茫漠とした状態が続きました。彼女の精神的な不安定さは致命的でした。私たちはなにも間違っていない。誰にも誹られることはしていない。堂々としろ。胸を張れ。なんて言葉をかけられる状態ではなかった。
今、私が人前で彼女を慰めるようなことすれば、ますます悪い噂が助長され、逆に残酷な状態に追い込むことになるかもしれない。混乱の中で私たちが今までのように会話をしてはいけないのだと認識せざるを得ませんでした。
とにかく、早く解決しなければ彼女が潰れてしまうかもしれないと焦りました。どうしてそう思ったのか、「課長に迷惑をかけた。私が悪い」と彼女が炊事場でつぶやいていたことを部下から聞いたのです。
その日の夜、私は彼女にメールを送りました。
「君のせいじゃない。君はなにも悪くない。普段通りの君でいいんだ。でも、もし、君が苦痛なら、君が話したいとき、メールをください。連絡をください。私はいつまでも待っています」
彼女からの返事はありませんでした。これ以上私から彼女に関わることは彼女を悪い方へ追い込んでしまうと考え、私はその日から彼女に近づかないように距離を保ちました。
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