三 「君がそこまで言うのなら」31

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三 「君がそこまで言うのなら」31

 彼女にとって杉田さんは光ではなかったのか。それが明滅する常夜灯であっても、真っ暗闇の世界に存在さえしていれば、まだ救いになる光かもしれないのに。彼女は大事な光を自ら遠ざけ、さらに閉ざした。  自己犠牲の愛。  本当に愛している人ならば、自分のためにと思ってしてくれた行為だとしても、うれしいはずはない。望むはずがない。どうしてそんなことを、と逆に苦しめる行為になってしまう。  もしも、自己犠牲を望むような人間ならば、その心には愛は存在しない。救いを与える者のみが愛を持ち続けているのだ。ましてや、杉田さんは自分を救うために犠牲になるような行為を決して望むような人でない。彼女はそんなこともわからなくなってしまったのだ。  杉田さんは私が思いをめぐらせていても話を続けた。  数日後、部長から呼び出しがありました。  部長は事の真意を聞いてくれるどころか、一方的に噂だけを信じて私を非難しました。私が全面否定し、私よりも彼女に迷惑がかかってしまうことも伝えた。  しかし、部長は目をつり上げるばかりで、FAXで送られた最初の怪文書を手に持ち、これがあるだろ。次は会社のノート・パソコンを指さし、写真まで撮られて会社に送られてきた。たとえでっち上げだとしても、脇が甘いんじゃないのかね。と私の自白を強要するように問い詰めました。  私は、いち同僚とのワンシーンを、悪意で切り取った仕業に他なりません。続きがあるわけではありません。私は後ろ髪を引かれるようなことはしていません。と真意の抵抗をしました。
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