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歩美
『あーモヤるー』ポチ。
牛丼の写真に簡単な文章を添えて投稿を済ませると、歩美はペットボトルの麦茶をきゅっと飲み干し、学食のテーブルに勢いよくトンっと置いた。
「お兄ちゃんがさ……。結婚するらしくて」
向かいに座る若菜は、オムライスを頬張りながらぱぁっと目を丸くした。
「へぇ、そうなんだ! おめでとう! あの、大学の時からずっと付き合ってるっていう彼女とついに?」
「……違う」
「え?」
「マユちゃんじゃなくて! 新しい彼女なんだって」
「え? そうなの? いつの間に」
「でしょ? いつの間にでしょ? このままマユちゃんと結婚すると思ってたのに……。確かにここ数ヵ月マユちゃんには会ってなかったし、連絡取り合ってなかったんだよね。超最近、新しい彼女になったぽくて。あー、マユちゃんと別れたとか全然知らなかった。どうしたのか聞いたけど、お兄ちゃんは『色々あんだよ』しか言わないし」
歩美は、ガツガツ平らげた牛丼の米粒をちまちまと箸で集めながら、口を尖らせた。
「へぇー。どうしたんだろうね? え、まさか、浮気からのデキ婚?」
「私もそう思ったけど、違うんだって」
「そうなんだ……。略奪愛的な?」
「さぁ」
「大人って分からないねーぇ。よっぽど綺麗な人なの? その婚約者」
「全然。マユちゃんと全っ然、雰囲気違う地味めな女。しかもお兄ちゃんより8歳も上だよ? マジ意味不明」
「えーなんでだろうね? 職場? よっぽど金持ちの娘とか?」
「いや、何だっけ。飲み屋で出会ったとか? お金だって別にだよ多分。両親は他界してて、特に親戚とかいないみたいなこと言ってた。私とも距離縮めたいのか知らないけど、『あゆみちゃん、よろしくね』だって。見てよこれ」
歩美は、早速交換させられたメッセージアプリに届いた、新参者からのメッセージを若菜に開いて見せた。
あゆみちゃん
おねがいがあるの。
これは永太さん無しでね
今度、わたしとお茶でも
どう?あたらしいカフェが
あって、試したくて!
ご都合いつがよろしいかしら。
「うわ。オバサン、媚びてるねえ……。お父さんお母さんは? ウェルカムな感じなの?」
「んー……ママはちょっと腑に落ちて無さそうだったけど、パパは普通に祝福してる感じ? だった」
「ふーん」
学食を出ると二人の午後は別の講義で、「続きはまたサークルの時に聞くね」と言って、若菜は学舎の二階へ上がって行った。
歩美は一人、一階の教室を目指しながら、腕を組んだ。
(カップルなんだから突然別れることはあり得るとしても、もう次の彼女と結婚だなんて、おかしいよね? マユちゃんと何があったの……? 一緒に二人で出かけたり、相談とか色々メッセージしたり、お姉ちゃんが出来たみたいで大好きだったのに。お兄ちゃん、あの女に何か騙されてる……?)
『マユちゃん、久しぶり。こんなこと連絡してごめんね? お兄ちゃんと別れたって聞いたけど、何があったの?』
歩美は手始めに、講義を聞いているふりをして膝の上でマユちゃん宛に送信してみたが、三日経っても返信はなかった。
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