発見

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「ねぇ、パパ? ちょっと聞きたいことがあるんだけど」  歩美は、父と二人きりのタイミングを狙って、直球を投げるつもりでソファでテレビを観る父の隣に座った。父は心なしか、ぎくっと肩を揺らした。 「どうした?」 「あのさ……?」  歩美は目一杯肩を寄せてひそひそ声を作る。 「冴子がメイドなの?」 「ぶふっ!」  父は吹き出た鼻水を擦り消す。 「責めてるんじゃないの。何か困ってるでしょ? 付き纏われてるの? お兄ちゃんの結婚、やっぱり変でしょ?」 「…………」  父のこめかみが動いて、目が泳ぐ。唾を呑み、覚悟を決めたように小声で答えた。 「……昔、ほんとに昔だよ? 色々と疲れている時期があって……ちょっとメイド喫茶に通ってたんだ。まさかその時の店員の子が、永太と結婚するといって現れるとは思わなかった。一体何の目的があるのか……」 「なるほど……」 「ママには言わないで……!」 「わかってる。私が何とかするから」 * 「あゆみちゃん、こんにちは。嬉しかったわ、あゆみちゃんから『明日会えますか』だなんて」  冴子はとびきり上品に仕上げた身なりで、待ち合わせの駅前時計台に現れた歩美の手を取った。  歩美はその手を振り払う。 「冴子さん、今日は、ハッキリお伝えしたいことがあります」  カッと見開いた歩美の目を、冴子はじとっと捕らえ、にんまりと微笑んだ。 「何かしら?」 「……あなたの狙いは、パパなの?」  冴子の表情は変わらない。 「お兄ちゃんと結婚することで、パパの娘にでもなろうとしてます?」 「違いますわ」  冴子は表情一つ変えず、淡々と返答した。歩美は余計に熱が籠る。 「とぼけないで! パパに聞いたんだから。昔パパ、家族に内緒であなたが働いてたメイド喫茶に通ってたことがあるんでしょ?」 「……」  冴子は視線をわずかに落とした。 「ええ。だけどお父様には興味一つありませんわ」 「だったら何なのよ、あのパパ宛のメールは」 「あれは、この結婚に絶対に反対しないように釘をさしただけですわ」 「とにかくもう、やめてくれませんか? お兄ちゃんをマユちゃんの所へ返して!」 「……やっぱり、愛情深い、いい子なのね。あゆみちゃん」 「は?」 「ふふ。いいわ、あなたに免じて少し考えてあげます。今日はこれで失礼するわね」 「あ、ちょっとまだ話……」  歩美は、立ち去ろうとする冴子の腕を掴んだ。 「……」  冴子は立ち止まり、にっこりと振り返った。 「嬉しい。腕組みしてデートする仲良し姉妹みたいね」 「はあ?」  冴子は歩美をそっと抱き寄せる。 「私ね、ずっとずっと、きょうだいが欲しかったの。SNSでずうっと、あなたとマユさんを見ているうちに、いいなあ、あゆみちゃんのお姉ちゃんになりたいなあって、ずっと思ってたの。どうしたらなれるかしらって、そうだわ、私とマユさんが代わればいいだけじゃないって思ってね。そうしたら、なんと、永太さんのお父様は私の昔のお客様。絶対に反対なんてできないわよね? はぁー、これが運命なのねって実感いたしましたわ」 「は?」  冴子は、じたばたと抵抗する歩美を、更に力強く抱き締めた。 「あなたの言葉を借りれば、私の狙いは、あゆみちゃん、ということになるのかしら」  歩美はぐいっと冴子を押し戻した。 「何言ってるですか?!」 「だってあなたいつも写真アップしてるじゃない? あなたとマユさん、とっても仲良さそうで羨ましくって。私、フォロワーなんですのよ?」 「頭おかしいんじゃないの! もう、私達に関わるのはやめてください!」 「……」  冴子はすんと、電池が切れたように微笑むのをやめた。 「いいわ。でも、あたらしいカフェ……」  言いかけて、またにんまりと微笑んだ。 「いえ、私の思いは伝わったかしら。ではさようなら。元気でね、あゆみちゃん。また投稿待ってるわ」  冴子はくるりと踵を返して、雑踏の中へ去って行った。 * 「へぇー、壮絶だったね」  一通り聞き終えた若菜も疲弊している。 「でしょ? 私の思いって……。ヤバすぎ……アカウントも消したし、マユちゃんにも話した。家族みんなで警察に相談してる」 「はぇー。姉になりたい思いねぇ……。ん? ねぇ歩美。もう一回見せて、あれ、あのメッセージ。冴子が歩美に媚びて送ってきたやつ!」 「え? これ?」 「……やっぱり! 何か変だと思ったのよ!」 「何が?」 「縦読み、じゃなくて……」 「え?」  メッセージ画面に食い入る二人。  視線を順々に斜めに下ろす。 「……!?」  冴子の執念の影が歩美の背筋を這い上がった。 〈完〉
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