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〔diary〕
いつも通り3人で遊んでいると,突然視界が揺れた。怪物の怒号が僕たちの基地に充満する。
助けて,と思った矢先,お馬さんが溶けた。どろどろになった何かは僕の足に絡みつき,化け物を模る。
あの時と同じだ。化け物が大きく口を開く。
〔rabbit and horse〕
日野が来なくなって数ヶ月が経った。今日こそ日野を連れ戻す。決意を固め,インターフォンを押す。
ドアを開けたのは,やつれた女だった。
「日野くんのお母さんですか?」「はい」
少し間を開け,頬がこけた女は答えた。
「その,日野君と話したいんですけど…」
「はい」
で終わりだと思い,ここで“はい”はおかしいだろうと思ったが,それは焦り過ぎだったようだ。
「ってください。」
勧められた通り,家の中に入る。日野の部屋は2階の1番奥にあった。
「幸紀は,幻覚を見るようになったので,あまり話せない,と思います。」その喋り方は拙く,とても疲れているようだった。
ノックをする。「ひ,日野,聞こえているか。」
中から呻き声は聞こえてくる。程なくして,暴れる音が聞こえた。その騒音に混じり,「助けて」とも取れるような嗚咽が耳にこびりついた。
中の日野の声があまりに苦しそうだったので,思わず目を背けたくなる。実際,目を背けた。
視線の先には,父から貰った時計があった。そこで,ある言葉を思いつく。これは,父も言っていなかったはずだ。
〔diary〕
食べられる。そう思った時,誰かが僕の名前を呼んだ。
「『話さないと人は壊れる』んだぞ。一緒にまた,話そう。扉を開けてくれ」
斗優くんの声だ。優しく語りかけてくるような,光が差すような声だった。
急に夢から覚めた気持ちになる。化け物はもう消えていた。あの可愛いうさぎは,と思い,先程までいた方向を見るが,そこには鋏しかなかった。
彼は隣人かどうか分からないが,言うなれば
『人付き合いはドアを開けた人から』だな,と心のうちで呟いた。
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