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久々に1階に降りると、リビングにお母さんがいた。あれ、今日は仕事じゃないのかな。
「仁菜……」
「お風呂、入る」
「……うん、うん、そうね。今沸かしてあげるわ」
お母さんは、ズズっと涙目で鼻をすすって風呂場へパタパタと走った。
数日後、お母さんに作法を習って、香典とお供え物を持って紗里の家へ向かった。お供え物は、紗里とMICHIYAのツーショットの絵にした。誰かのために絵を描いたのなんて、初めてだ。
インターホンを鳴らす。
「はい」
紗里のお母さんと思しき声が、弱々しく返事をした。
「こんにちは。紗里ちゃんの友達の、平原です。お線香を上げさせていただけませんか」
* * *
今日は9月5日。生きていれば17歳の、紗里の誕生日だ。
私は、新しく描いた紗里の似顔絵を持って、青い青い空を見上げた。あの雲の上で、紗里が笑って手を振ってるみたいに感じた。
「おめでとう。もう、きみのせいで、すっかり紗里担だよ」
空に向かって内緒話のように報告すると、インターホンを鳴らした。
<完>
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