空にはきみがいるから

5/5
前へ
/5ページ
次へ
 久々に1階に降りると、リビングにお母さんがいた。あれ、今日は仕事じゃないのかな。 「仁菜(にいな)……」 「お風呂、入る」 「……うん、うん、そうね。今沸かしてあげるわ」  お母さんは、ズズっと涙目で鼻をすすって風呂場へパタパタと走った。  数日後、お母さんに作法を習って、香典とお供え物を持って紗里の家へ向かった。お供え物は、紗里とMICHIYAのツーショットの絵にした。誰かのために絵を描いたのなんて、初めてだ。  インターホンを鳴らす。 「はい」  紗里のお母さんと思しき声が、弱々しく返事をした。 「こんにちは。紗里ちゃんの友達の、平原です。お線香を上げさせていただけませんか」  *  * *  今日は9月5日。生きていれば17歳の、紗里の誕生日だ。  私は、新しく描いた紗里の似顔絵を持って、青い青い空を見上げた。あの雲の上で、紗里が笑って手を振ってるみたいに感じた。 「おめでとう。もう、きみのせいで、すっかり紗里担だよ」  空に向かって内緒話のように報告すると、インターホンを鳴らした。 <完>  
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加