空にはきみがいるから

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 動画サイト、各種SNS、テレビに雑誌と、今日も巡回を終えて、ベッドの上のMICHIYA柄の枕に頭を置いて大の字になった。天井にもいるMICHIYAの笑顔を眺める。これが寝る前の最高の時間。今日も、歌うMICHIYA、踊るMICHIYA、トークでちょっと天然なMICHIYA、たくさんのMICHIYAを愛でることができた。はぁ、幸せ、幸せ。同担拒否を貫き、群れることなく1人だけの時間でMICHIYAを追いかける……。時には、誰に見せるでもないMICHIYAの絵を描きまくることもある。これがたまらないのだ。 「仁菜(にいな)、まだ起きてるの。早く寝なさい」  ドアの向こうで、お母さんの無機質な声がした。最高の気分に水を差されたようで最悪。ドアを睨んで電気を消すことで、返事とした。寝不足を心配するとか、しつけしようとか、そういう愛情のこもった声かけじゃないのだ。ただ、こんな時間まで娘の部屋に電気がついているのが、理想から外れていて気に入らないだけ。  まぁいい、親の機嫌取りはお兄ちゃん達に任せて、私は無機質な小遣いを存分に、ACEisのライブ遠征、MICHIYAのグッズ購入に使わせてもらいまーす。  MICHIYAの笑顔をまぶたの裏で再生させながら、甘い眠りについた。    翌朝、いつもの癖でSNSを開くと、衝撃のニュースが画面を埋め尽くしていた。 『衝撃 MICHIYA 死去 いったい何が』 『ACEis MICHIYA 若すぎる死去』 『都内某ホテルにて MICHIYAの遺体発見』 「……は?」  ニュースアプリも、別のSNSも、全部同じだった。私は部屋中をキョロキョロした。どっきりか何か? モニタリングとか? いくら見回しても、隠しカメラは見当たらない。  慌てて部屋の小さなテレビを付ける。朝のニュース番組も、速報としてどのチャンネルでも同じ内容をやっていた。 「……は??? 嘘でしょ???」  バン! とドアを乱暴に開けて1階へ駆け降りる。部屋の電波に何か仕掛けられているのかもしれない。 「何、騒々しい」  リビングの大きなテレビでも同じ内容が流れていた。 「……嘘でしょ!!」 「あぁ、この子あんたが好きな……」  やっとニュースに目をやったお母さんを放って、再び自室へ駆け上がった。リモコンを力の限りに押して全チャンネルを見てみるが、同じことだった。 「嘘でしょ??? 嘘だと言ってよ!!」  キャスターへ絶叫をぶつけ、テレビの両端を掴んでガタガタと揺すったが、同じことだった。  そのせいでチェストの上の小物類がガチャガチャと落ちた気がするが、そのまま床に散乱したMICHIYAグッズの中で、膝をついた。  嘘でしょう――?  MICHIYAが死んだってこと――?  私は……、私は……、MICHIYAを失ったってこと――?
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