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「……っていうストーリーを妄想しながら作ってみたんですよ」
「残業続きで気が狂いましたか?」
隣席の女性教員の塩対応に若干しょぼくれつつ、加見孝宏は印刷ボタンを押して席を立った。
生徒達はとうに帰宅した日没後、職員室にはまだ半分ほどの教員が残り、数ヶ月に一度の大仕事に取り組んでいる。
キーボードのタイプ音や教科書をめくる音。加見は途中で何人かの同僚と会釈を交わしつつプリンタに向かい、出力したプリントを取ってデスクに戻った。
席に座り、プリントの左上から順に目を通して不備がないかを確認する。特に先ほど出来上がったばかりの小問——今回のテストで最も難しい問題——については、念のためもう一度手元の白紙で筆算を行った。
【大問9・(3):Kさんは12時0分に家を出て、毎分50mで歩いた。Kさんの忘れ物に気づいたお兄さんが、12時10分に家を出て毎分180mでKさんを追いかけた。お兄さんは途中で足を怪我してその先を毎分90mで歩き、12時18分にKさんに追いついた。お兄さんが足を怪我した時刻を求めよ】
計算結果は「12時12分」。ちゃんと整数解だ。
「はあ、やっとできたー!」
七日間かかった大仕事がついに完了。晴れやかな気分に浸りつつPCをシャットダウンし、荷物をまとめて席を立つ。
——今夜、加見は世界の創造を終えた。
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